第449号【唐あくちまきと長崎港】
4月の陽気に誘われてまちを歩けば、早くも鯉のぼりを立てているお宅がチラホラ。一緒にいた70代の女性が、「長崎の五月の節句といえば、唐あくちまきと柏餅。我が家でも以前は必ず作って供えていたのよ」。しかし、息子さんたちが進学や就職で親元を離れてからは、作ることもなくなったとか。そんな話の後、急に食べたくなって、おまんじゅう屋さんで「唐あくちまき」を買い求めたのでした。
さらしで作った棒状の袋入りで売られている「唐あくちまき」。端午の節句を前にした時期から特に需要が増えるようで、店頭でよく見かけるようになります。「唐あくちまき」は文字通り、ちゃんぽん麺にも欠かせない「唐あく」を使ったちまきです。「唐あく」を溶かした水を餅米に吸水させ、さらし袋に入れ、2時間ほどゆでて作ります。さらし袋から取り出した棒状のちまきは、糸を使って切り分け、きなこや砂糖などをかけていただきます。「唐あく」独特の風味と、飴色をした餅米のねばり。クセになるおいしさです。
「唐あくちまき」は中国にゆかりの深い長崎で、すでに江戸時代には食されていたことがわかっています。地元の料理研究家の方によると、「唐あく」はアルカリ性なので、肉食などで酸性に偏りがちなときに、唐あくを使った食品を食べると良いとか。また、唐あくは漢方薬のひとつであり、「身体の邪気を払う」ともいわれているそうです。
「唐あくちまき」の入った袋をぶら下げて、「長崎水辺の森公園」へ。長崎港に面したこの公園では、風のいい日にはハタ揚げを楽しむ光景が見られます。この日、大きなクルーズ客船の姿がありました。「セレブリティ・ミレニアム」という約91,000トンの船で、先月長崎に入港した「クイーン・エリザベス」にも匹敵する巨大さです。もうすぐやってくるゴールデンウィーク(4/26~5/6)中には、長崎港に計6隻のクルーズ客船が寄港する予定です。
ゴールデンウィークは、長崎港から目が離せません。この時期恒例の「長崎帆船まつり(4/27~5/1)」も開催され、「日本丸」ほか「パラダ」(ロシア)、「コリアナ」(韓国)などの美しい帆船が港に集い、関連イベントで賑わいます。
長崎港での催しを楽しむために「長崎水辺の森公園」を訪れたら、ぜひ対岸の造船所にも目を向けてみてください。世界遺産に推薦されている『明治日本の産業革命遺産』の構成資産のひとつである「ジャイアント・カンチレバークレーン」の姿が確認できます。これは、いまから100年以上も前に三菱長崎造船所に建設された日本で初めての電動クレーン(高さ61.7m)で、いまでも荷物を積む際に使われているそうです。
440年以上も前に遡る開港前までは、日本の津々浦々で見られるような何の変哲もない入り江のある村だった長崎。その後、中国、ポルトガル、オランダとの貿易が行われ、明治に入ると近代化に突き進む日本を象徴する造船所ができるなど歴史に残るさまざまな光景が繰り広げられてきました。「唐あくちまき」もこうした歴史のなかで、中国から伝わり長崎の食文化として根付いたのです。いまは、人々の笑顔が集うこの港で、潮風に吹かれながらめくるめく歴史を振り返ってみるのもいいかもしれません。
◎参考にした本/「長崎の菓子~甘味のちゃんぽん文化~」(大坪藤代 著)、「広報ながさき759号」(長崎市)