第448号【長崎・春便り】

 いま東日本を北上中の桜前線。一方、3週間ほど前に開花した長崎は、4月に入る直前の春の嵐でソメイヨシノはいっきに花びらを落としはじめました。沿道の桜並木から舞い散る花びらのなかを、小さな路面電車がくぐりぬける様子はまるで映画のワンシーンのよう。春、ほんの数日しか出会えない風景です。



 

 一足先に新しい季節がやってくる九州。日中の日差しは、早くも初夏の気配が漂い、長崎港を囲む山々の緑も日々まぶしくなっています。眼鏡橋がかかる中島川では、イソヒヨドリがさえずり、ムクドリが水浴びをするようになりました。ちなみに青色と赤褐色のコントラストが美しいイソヒヨドリは雄で、雌は全身が暗褐色の地味な姿をしています。全国の海岸などに繁殖し、長崎でも港の岸壁あたりだと見つけやすいです。





 

 中島川を上流(片淵方面)に向かって歩くとマガモの姿がありました。黄色いクチバシ、緑色の頭、こげ茶色の胸、白い首輪など色鮮やかな姿をしています。これは雄で、雌は全身が黒褐色をしています。マガモは、以前はもっと下流の眼鏡橋界隈にいましたが、一昨年くらいから姿を見かけなくなっていました。餌のある草地を求めて上流へ移動したのかもしれません。ちなみにマガモは全国的に見られる水鳥ですが、一部の地域では軽度に絶滅の危機が懸念されるとしてレッドリストに載っているとか。これからもマガモを見守っていきたいものです。



 

 まちのあちらこちらで、春のやわらかな野草の生い茂るさまを見ると、ときに雑草と呼ばれる植物のたくましさを思い知らされます。うつむきかげんに紫色の花をつけるスミレ。「山路来て何やらゆかしすみれ草」(芭蕉)、「菫ほど小さき人に生まれたし」(夏目漱石)などの句からもうかがえるように、その姿は日本人の感性をくすぐるのですが、その可憐な姿とはうらはらに、スミレ自身はたいそうしたたかです。あんな小さなカラダでタネを3メートルも飛ばしたり、またアリを利用していろんなところに運んでもらったりして長く生き残ってきました。



 

 ギザギザの葉を持つタンポポは、葉を地面のすぐ上で放射状に伸ばしています。このような付け方をした葉を「ロゼット葉」といいますが、これは、その植物が踏まれる事を前提にした生育の仕方。踏み付けられるからはじめから上に伸ばさないそうです。茎の方は基本、まっすぐに伸びて花を咲かせますが、踏み付けに対する耐性を持っていて、何度が踏まれると、茎を横に伸ばして花をつけるそうです。



 

 踏まれたら立ち上がるという無駄な努力はせず、踏まれながら生きる知恵を働かせるロゼッタ葉の野草。帰り道、路上販売のわらびやタケノコを買い求めながら、自然界の奥深さを思うのでありました。



 

◎参考にした本/「野鳥ガイドブック」(志村英雄、山形則男、柚木修 共著)、「雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方」(稲垣栄洋 著)

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