第446号【春よ、来い】
3月に入ってからも猛吹雪や積雪など真冬並みの厳しい天候で、たいへんな思いをされている地域の方々へ、心よりお見舞い申し上げます。一日も早く、全国各地に穏やかな春がやってきますように。
こちら九州・長崎は、ずいぶん春めいては来たものの、この時季から多くなる黄砂に見舞われたりしながら、三寒四温の天候が続いています。風はまだまだ冷たく、石橋群で知られる中島川で見かける白サギもどことなく寒そう。しかし一方で、川沿いには菜の花が咲き、暖地を好むハクセイレイやキセキレイの姿も見られます。観光客でにぎわう眼鏡橋のひとつ下流側にある袋橋(ふくろばし)の下では、春先に育つ海髪(うご)が川面をあざやかな緑色に染めていました。このあたりは長崎港の海水と川水が混じるところ。塩分が適度に低くなった場所は、海髪が育ちやすいそうです。
中島川上流の桃渓橋(ももたにばし)のたもとでは、桃の花が満開。家々の庭先ではハクモクレンがおおぶりの花びらを開きはじめました。この調子で季節がすすめば長崎のソメイヨシノの開花日は、平年並みの今月22日頃になるとか。関東や甲信地方では平年より遅くなり、東北・北海道は平年並みか平年より遅れるところもあるそうです(「桜の開花予想」3/5日本気象協会発表より)。
長崎市鳴滝地区の「七面山(しちめんさん)」と呼ばれるところにある「妙光寺( みょうこうじ)」は、地元では一足早く楽しめる桜の名所として知られています。ちょうど今、啓翁桜(けいおうさくら)という、早咲きの桜が満開のときを迎えています。やさしいピンク色をした小ぶりの花で、控えめながらさわやかな香りがします。
ところで「七面山」は、江戸時代から続く長崎の正月の風習のひとつである「七高山巡り(しちこうさんめぐり)」という正月登山で行く山のひとつです。七高山とは、長崎のまちを囲むようにしてある金比羅山(こんぴらさん)、七面山、烽火山(ほうかざん)、秋葉山(あきばやま)、豊前坊(ぶぜんぼう)、彦山、愛宕山(または岩屋山)の7つの山のことで、年のはじめにそれぞれの山に登り一年間の無病息災を祈願します。江戸時代は、正月2日から15日までの間に、「今日は、この山」、「明日は、この山」と決めて、家族や親族が揃ってのんびりと登っていたそうです。現在は、尾根を行く短いルートで、一日でいっきに山々を巡るのが主流のようです。
妙光寺からの帰り道、鳴滝界隈を散策。江戸時代にはシーボルトの鳴滝塾や唐通事の別宅などがあり、風光明媚な田園地帯でした。現在も市中心部の住宅街ながら、段々畑のある緑深い山に囲まれ、のどかな風景が残っています。畑の脇道を行けば、豆の花、木瓜の花、キンセンカ、ペンペン草、モンシロチョウなど、春の植物や昆虫たちと次々に遭遇。日だまりでウトウトするうららかな春は、もうすぐそこまで来ています。
◎参考にした本/「日本大歳時記~春~」(講談社)