第427号【家庭で焼くカステラ】
長崎のまちを歩いていると、修学旅行生らしき中高生のグループによく出会います。先日、路面電車内で遭遇した女子高生たちは、お昼にちゃんぽん、皿うどんを食べたそうで、その腕にはカステラ入りの紙袋を下げていました。スマホ時代の若者も、長崎の旅の定番は固定電話時代とまったく変わっておりません。よくよく振り返ってみればカステラは、星々と羅針盤を頼りに海を渡った大航海時代に日本に伝わって以来、GPSで誰もが手軽に地球上での位置を確認できる現代まで、ずっと長崎名物として食べ継がれてきました。本当にすごいことだなあと思います。
現在、長崎では、冠婚葬祭をはじめ、ちょっとしたお礼や手土産など、日常的にカステラをさしあげたり、いただいたりすることが多いのですが、戦後から東京オリンピック(1964年)の頃までは、そうした機会は今よりもうんと少なく、自家用に買うなんて、とても贅沢なことでした。
長崎に生まれ育った熟年世代の女性たちに聞いてみると、子どもの頃、母親が焼いてくれたとか、自分自身も家族のためにカステラを手作りしたことがあるという方がけっこういらっしゃいます。それは、卵の風味が強くて、何となく食パンのような口当たり。当時の自家用カステラは、生地を膨らますのに本来のカステラでは使わないイーストを使うことがあったそうです。もちろん、見た目も味もお店のものにはかないませんが、それなりにおいしく、焼いているときのあの甘い香りは忘れることができない、という方もいました。
卵、砂糖、小麦粉、ザラメ、水飴を使って作るカステラは、甘くてもっちり、しっとりとしています。カステラが長く愛されているのは、この材料のシンプルさにあるような気がします。カステラの老舗では、そこに材料を見極める目や技など、長い年月によって磨かれたものが加わるわけです。
自分で焼くカステラは、同じ材料を使っても作るたびに見た目や食感が微妙に変わります。気温や湿度に加え、卵の泡立て加減や材料の混ぜ方に、出来具合が大きく左右されるよう。本当にデリケートなお菓子です。
各材料の分量は、他のレシピサイトにゆずるとして、諸先輩方から聞いた作るときのポイントは、卵白の泡立て加減だそうで、泡をもちあげたときツノが出きるくらい泡立てます。すると生地がふんわりするそうです。また、生地を焼き型に流し込んだ後、表面にできた空気の泡をヘラで切るように消していく「泡切り」という作業も重要です。表面が均一に焼き上がります。
自分で手作りするカステラは、何だかほのぼのとした味。市販のバニラアイスをはさめばカステラアイス、生地であんこを巻けばカス巻きになり、バリエーションも楽しめます。…でも、やっぱり、買ったほうが早くて、おいしい…ですね。