第407号【涼を求めて中の茶屋へ】
梅雨が明け、暑さもひとしお。外出時はついつい建物や木の影を探しながら歩いてしまいますね。身も心も涼を求めるこの季節。眼鏡橋などの石橋群が架かる中島川にいくと、気持ち良さげに泳ぐコイや、水面でエサを採る青サギ、コサギ、ゴイサギの姿が見られます。そこは、まちのなかの小さな自然界。暑さや喧噪をよそに、涼やかな景色が楽しめます。
いま夏休み中とあって涼を楽しむレジャー&観光スポットは、どこも子供たちでいっぱいです。長崎観光で心静まる大人の涼を楽しみたいという方は、かつての丸山花街の一角にある「中の茶屋」を訪れてみませんか。洗練された数寄屋風の住宅と江戸時代中期に築かれたという小さな庭園のあるところで、和やかなひとときを過ごすことができます。
「中の茶屋」は江戸時代の丸山の遊女屋「中の筑後屋」が、裏手の高台に茶屋として設けたもの。当時は「花月楼」と並び知られ、多くの文人墨客が訪れたと伝えられています。長崎奉行も市中を巡検する際には休憩所として指定していたとか。ちなみに「中の茶屋」のお隣には丸山の芸者衆が参拝していた梅園天満宮があります。この界隈は石畳の路地や石塀、飾り格子のある家屋など、あちらこちらで遊郭時代の名残りを見ることができます。
「中の茶屋」の現在の建物は、昭和46年に近所で起きた火災により全焼。のちに火災前の家屋が復元されたものです。江戸時代の茶屋の建物についてはよくわかりませんが、復元された玄関の広さ、炉がきられた奥座敷、次の間、広い縁側などから、茶屋として利用された時代の雰囲気が感じられます。冷房の効いた和室から縁側のガラス越しに見る庭園の涼しげなこと。各地に残される大名庭園とは違い、ある意味、名もなき小規模な庭園ですが、江戸期から続く景色かと思うと感慨深いものがあります。
松、梅、桜、サツキ、柿など四季折々に楽しめる植栽。敷石、飛び石、石灯籠、手水鉢など長崎では珍しく純和風な趣きです。江戸時代、庭園造りは全国的にブームになったと聞いたことがありますが、中の茶屋の庭園は、幕末・明治期に入ってくる西洋庭園の影響を受けていない庭園といえるのかもしれません。
現在、「中の茶屋」は「清水崑展示館」にもなっていて、昭和の時代の懐かしいかっぱの絵も楽しむことができます。
さて、中の茶屋から徒歩で3、4分ほどのところには「玉泉神社」があります。軒周辺の装飾には中国の影響と思われる極彩色の龍や獅子が彫られるなど、神社らしからぬ雰囲気を漂わせています。「玉泉神社」はもとは天台宗・聖護院の末寺だったそうで、のちにこの地に祀られていた稲荷社と合祀されたとか。中国風の飾りの由来については不明ですが、もしかしたら江戸時代、唐船主からの寄進によるものかもしれません。それにしても、いかにも長崎らしい神仏混合的な姿でありました。
◎参考にした資料や本など/長崎市中の茶屋(リーフレット)、長崎市史~地誌・佛寺部(下)編~、よくわかる日本庭園の見方(JTBパブリッシング)