第404号【長崎くんちの小屋入り】

 梅雨空の下、大きな花を咲かせたアマリリス。通りすがりの人の足を止めるほど、ハッとさせる美しさです。紫陽花や花菖蒲にしても、この時期に咲く花々は、どれも曇り空に映える色、姿をしています。すっきりしない天候が続くとき、気分を晴れやかにしてくれるありがたい存在です。



 

 6月は衣更えにはじまり、窓に簾を掛けたり、カーペットを籐製のものに変えるなど部屋の方も涼しげに模様替え。また、出回りはじめた梅やらっきょうを買い求めて、梅酒、梅干し、らっきょう漬け作りに精を出すなど、夏に向かって衣食住を整えるのに、何かと忙しい月でもあります。

 

 一方、長崎の伝統行事に目を向けると、6月は「小屋入り」で幕が開けました。「小屋入り」とは、諏訪神社の秋の大祭、「長崎くんち」に関わる行事のひとつで、毎年6月1日に踊り町(おどりちょう:その年に奉納踊りを披露する当番の町)の方々が、諏訪神社と八坂神社で清祓(きよはらい)を受け、演し物を無事奉納できるよう祈願します。


 

 「小屋入り」はその年の「長崎くんち」のはじまりを告げる大切な行事です。この日から各踊り町は本番(10月7・8・9日)に向けて演し物の稽古に入ります。なぜ「小屋入り」というかというと、昔は文字通り、小屋を建て、その中で身を清めて稽古に挑んだからだそうです。



 

 「小屋入り」の日の朝、各踊り町の男性は紋付きはかまやスーツ、女性は着物に身を包み、行列をなして諏訪神社、そして八坂神社へ参拝します。午前中に清祓を終えると、午後は3時頃から「打ち込み」があります。「打ち込み」とは、ほかの踊り町や年番町(くんち運営の手伝いをする当番の町)など、関係先への挨拶回りのことをいいます。



 

 「打ち込み」では、町の長老らを中心とした男衆が、軽快な唐人パッチに着替え町名が入った提灯を片手に、シャギリ(囃子)をともなってふたたび町を練り歩きます。今年の踊り町は、今博多町(本踊)、魚の町(川船)、江戸町(オランダ船)、玉園町(獅子踊)、籠町(龍踊)の5町。今回、今博多町の「打ち込み」に同行させていただきましたが、町や関係先など20カ所近くを約3時間かけての挨拶回りは、かなり体力を使いました。しかし、踊り町のみなさんに弱音を吐く人は一人もおらず、むしろ晴れ晴れとした表情です。故郷の祭りを愛する人々の心に触れたような気がしました。




 

 

 ところで、「小屋入り」の日は、長崎の人にとって「厄入り」の日でもあります。厄年に関する慣習は地域によって異なると思いますが、長崎では、昔からこの日に厄入りの祈祷を行う人が多いのです。厄入りの酒宴では、厄に入った当人をその日の内に自宅に帰してはならないという言い伝えもあります。最近の若い人は早々と切り上げる方も増えたと聞きますが、それを口実に遅くまで飲む方もまだまだいらっしゃるようです。













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