第403号【美しくておいしい紫陽花】

 長崎は紫陽花のシーズンがはじまりました。まだ固いつぼみが多いのですが、葉は瑞々しくしげり、道行く人の目を楽しませています。また、ビワもシーズンを迎えています。路地ビワの樹には実がたわわです。住宅街などでも庭木のビワに袋がけをしたところを多く見かけます。ビワの産地・長崎ならではの光景かもしれません。





 

 紫陽花の季節には必ず訪れたい場所があります。長崎市鳴滝にある「シーボルト記念館」です。出島の商館医シーボルトは、ある紫陽花の品種に、彼が愛した日本人女性「お滝さん」の愛称から「オタクサ」と名付けました。同記念館ではこのエピソードにちなんだ小さな企画展を毎年開催しているのです。

 



 今年の企画展「シーボルトとオタクサ展」(平成245 18日~617日まで開催)では、世界で最も美しい図鑑のひとつといわれている『日本植物誌』(シーボルトほか 著)をはじめ、シーボルトにとって出島の商館医の大先輩で、日本の植物について先に著したケンペルやツュンペリーの関連資料、さらに幕末の日本の植物学者が著した書などが展示されています。



 

 なかでも目を引いたのは、デンマークの名窯ロイヤルコペンハーゲン・ポーセリン製のカップとソーサーです。『日本植物誌』からアジサイをはじめクロマツ、サザンカ、ハマナスなど10種類の花をモチーフにした優雅な陶器でした。

 

 シーボルトの生涯を知る貴重な資料が展示された「シーボルト記念館」は、シーボルトの学塾兼診療所だった「鳴滝塾」跡にあります。周囲を豊かな緑に覆われた静かなところで、いまでは紫陽花の名所としても知られています。時を経て語り継がれる「お滝さん」への愛情物語とともに、心に刻まれる美しい風景に出合える場所です。



 

 ところで、見目麗しい紫陽花ですが、食べておいしい紫陽花もあります。長崎の味を代表する卓袱料理の小菜のひとつ「紫陽花揚げ(あじさいあげ)」です。エビのすり身を丸め、小さく角切りした食パンを衣にして揚げたもので、形が紫陽花に似ています。いつ頃から卓袱料理に出されるようになったのかはわかりませんが、古いものではなさそうです。同じく卓袱料理で出されるハトシ(エビのすり身を食パンではさみ揚げたもの)を、長崎にゆかりの深い紫陽花の形に転じたものともいわれています。



 

 エビの風味とサクサクした衣がおいしい「紫陽花揚げ」は、長崎の惣菜屋さんでも時折見かけます。見て美しく、食べておいしい紫陽花をお楽しみください。












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