第397号【ノスタルジックな赤レンガの風景】

 「長崎ランタンフェスティバル」の期間中、大勢の人出で賑わった新地中華街や唐人屋敷周辺。ランタンの装飾が取り払われたとたん、あの幻想的な雰囲気はまぼろしのように消えてしまいました。また来年が楽しみです。



 

 いつものまちの風景にもどったとはいえ、唐人屋敷(館内町)や隣接する東山手、そして南山手は、やはり独特で個性的なエリアです。石畳の坂道や赤レンガ塀、御堂や洋館など、中国や西洋の文化に影響を受けた時代の名残りがあちらこちらに見られます。そうした景色は初めて長崎を訪れた人でも、なぜかしら郷愁を誘うから不思議。なかでも赤レンガのある風景はノスタルジックです。



 

 唐人屋敷から東山手に続く斜面地の住宅街に足を踏み入れると、年期の入った赤レンガ塀の通りがあります(ピエル・ロチ寓居跡近く)。積まれたのはいつ頃でしょうか。年期の入ったレンガ色の眺めは、何の変哲もない生活道を味わい深くしています。



 

 明治期、近代化という大きな時代の流れのなかで、全国に広がったレンガの建造物。いまも各地に当時のものが残されているようですが、長崎市小菅町には日本最古ともいわれる赤レンガ建築があります。修船場のウインチ小屋の外壁で、明治元年につくられたものです。その修船場は、船台がそろばんに似ているところから「そろばんドック」と呼ばれています。 

 

 この日本最古の外壁は、幕末にオランダ人技師が伝えた厚さ4センチほどの「こんにゃく煉瓦」です(本コラム393号で紹介。)ちなみにレンガというと赤色と思いがちですが、白レンガと呼ばれるタイプもあります。それは耐火レンガで古い洋館などにいくと暖炉などで見ることができます。

 

 東山手や、南山手のグラバー園そばでも石畳の通りに沿って赤レンガ塀が見られます。当時の職人さんたちが一つひとつ規則的に積んだ赤レンガをよく見ると、積み方に違いがあることがわかります。小口(もっとも面積の小さい面)を手前にして積み上げる「小口積み」、長手(レンガの横側の長い面)だけで積み上げる「長手積み」、小口を並べた段の上に長手を並べる「イギリス積み」、同じ段に小口と長手など幅の違う面が並ぶ「フランス積み」など。この界隈で見かける多くは、「イギリス積み」のよう。なかにはアーティスティックな表情もあって面白いです。





 

 ところで石畳の坂道を上ったり下ったりしていると、道の真ん中で寝そべっている路地ネコたちとよく遭遇します。このあたりのネコたちは、気のせいか毛の長さや色、表情など、どこか異国風が目立ちます。奈良時代(もしくはそれ以前)に日本に渡ってきたといわれる唐ネコの多くは短尾だったそうですが、長崎でも、ボンボンのように丸まった短尾種を多く見かけます。江戸時代に唐船が運んできた唐猫の子孫なのでしょうか。個性的な尻尾を見て回るのも、長崎のまちを散策する楽しみのひとつでもあります。



 

◎参考にした本など/赤レンガ近代建築」(佐藤啓子/青幻社)

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