第392号【ヒカドに似た全国各地の根菜料理】
あたたかい汁物が恋しい季節です。たとえば、ちゃんぽん。盛りだくさんの具材や麺のほうに気を取られがちですが、そのスープは野菜や魚介類、お肉などの旨味がたっぷり染み込んだ滋味あふれる味わい。具を食べた後、スープも残さず飲み干せば、身も心もポッカポカになります。
あたたまる長崎の郷土料理といえば、「ヒカド」があります。サツマイモ、ダイコン、ニンジンなどの根菜類と、シイタケ、キクラゲ、煮干し、ブリ、鶏モモ肉などの具材を全部さいの目に切って煮込み、すりおろしたサツマイモでとろみをつけた醤油仕立ての料理です。「ヒカド」という名称は、「物をこまかく切る」を意味するポルトガル語のピカド(picado)が語源で、16世紀に南蛮人から伝えられた料理といわれています。ちなみに具材をさいの目に切ると、食べやすくなるだけでなく、調理の際には火が通りやすくなるのでちょっとした燃料の節約にもつながります。
「ヒカド」によく似た郷土料理が福島にありました。「ざくざく汁」です。ニンジン、ダイコン、ゴボウ、サトイモ、コンニャク、シイタケ、鶏モモ肉、焼き豆腐を主な材料とし、あれば煮干し、豆、大豆なども一緒に煮込みます。こちらはヒカドよりも具だくさん。同じ醤油仕立てですが、とろみを付けないすまし汁です。使う材料も「ヒカド」に似ていて、その切り方も一口大のさいの目切り(乱切りやいちょう切りするところもある)なので、お椀に盛ったときの姿はヒカドのようでもあります。
「ざくざく」という名の由来は、材料をざくざくと切るからとか、黄金がざくざく貯まるようになど縁起を担いだ説もあるようです。ちなみにこの料理は汁物と煮物の間のような料理なので「ざく煮」「ざくざく煮」とも呼ばれています。また同じ福島でも奥会津あたりではクルミを煮汁で溶いたものを加えることもあるとか。お国柄が忍ばれます。
ヒカドに似た実だくさんの郷土料理は、全国各地にまだまだたくさんあります。青森県の郷土料理「粥の汁(けのしる)」もそうです。特に津軽地方では冬の料理として親しまれている料理で、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ワラビ、フキ、コンニャク、凍み豆腐、油揚げなどをさいの目に切り、イワシのだしで煮たます。仕上げに青大豆をすって入れたり、山菜を使うところに土地柄が感じられます。こちらは味噌仕立てですが、さいの目に切った多種類の具材をお椀に盛った様子はやっぱり「ヒカド」似なのです。
このほか、高知の「ぐる煮」、鳥取の「こにもの」なども具材がさいの目に切られているので、見た目が「ヒカド」にそっくりです。だからと言って、こうした料理の発祥が「ヒカド」というわけではないはず。でも、もしかしたら、江戸時代などに長崎から伝わったものもひとつくらいはあるかもしれません。また、さいの目にこだわらなければ、おなじみのけんちん汁、さつま汁、のっぺい汁も仲間と言えるでしょう。
全国津々浦々に伝わる具沢山の根菜類料理。そのルーツをたどると、収穫の祭りやお正月などの行事食だったというものも少なくありません。あなたのお住まいの地域ではどのような料理が食べ継がれていますか。
◎参考にした本/日本料理由来事典(同朋舎)、聞き書きふるさとの家庭料理(農文協)