第390号【サツマイモを使った伝統食】

 11月の五島列島は、特産品であるかんころもちの主原料「干しイモ(ゆで干しかんころ)」作りの最盛期です。島の畑で収穫したサツマイモの皮をむき、スライスして茹で、数日、天日で乾燥させたものが「干しイモ」です。干されることで甘みが増し、この段階で、すでにおいしいおやつになります。この後もち米と一緒に蒸し、つきあげてかんころもちにします。



 

 五島列島のかんころもちに代表されるように、長崎県はサツマイモを原料にした郷土料理が多彩です。その種類は九州のなかでも特に多いとか。幅広く奥深いサツマイモの世界。今回も「長崎」という窓からのぞいてみました。



 

 カンショ、唐イモ、琉球イモのほか、八ちゃん(島原など)、孝行イモ(対馬)などいろいろな呼び名で親しまれているサツマイモ。やせた土地にも育つ栄養豊富なこのおイモは、江戸時代の飢饉にも、戦中・戦後の食料難の時代にも大きな役割を果たしてきました。現在、世界での生産量は約12700万トン(2002年のデータ)。これは、大豆やトマトに次ぐ7番目くらいの多さだとか。世界三大穀物(小麦、米、トウモロコシ)には含まれないものの、堂々たる生産量です。



 

 サツマイモの原産は中央アメリカ。15世紀の終わり頃、コロンブスがヨーロッパへ持ち帰り、日本へは17世紀初め頃に伝えられたといわれています。その経緯は、東南アジアから鹿児島へ、または沖縄(琉球)から平戸へ入ったなど諸説ありますが、いずれにしても九州はサツマイモ栽培の先進地でした。

 

 戦中・戦後に子供時代を過ごした方々によるとサツマイモは主食のほか、「イモ水飴」、「イモ飴」、「イモかりんとう」などのおやつにして食べていたとか。また、正月もちの残りなどを、茹でたサツマイモの中に入れて熱々の状態で練り上げていただく「びょうたれ」(諫早)、米粉の団子とかんころの粉で作った団子を交互に串にさした「かべかべ団子」(五島)、さつまいもにそば粉を加え練ったものに、きな粉をかけていただく「かまほぐり」、蒸したさつまいもに小麦粉または米粉を加えてつくる「どんだへもち」(島原)、さつまいもを発酵させてつくる保存食の「せん」(対馬)など、創意工夫の伝統食が県下各地に残っています。



 

 なかでも島原地方の「ろくべえ」は個性的な料理のひとつかもしれません。サツマイモ粉とすったヤマイモでこねた麺を、カツオ節やイリコ、アゴなどのダシで作ったすまし汁でいただく料理で、黒っぽい麺が特長です。天保の大飢饉のとき、島原の名主の六兵衛さんという人が考案した料理だと伝えられています。また、対馬にも「ろくべえ」があります。前述の「せん」を柔らかくこねなおしてつくる麺は、島原のものより弾力があるともいわれています。季節の貝類や干し椎茸のダシで作ったすまし汁でいただきます。





 

 各地に受け継がれるサツマイモを使った料理。それは、かつての厳しい生活環境を生き抜くために培われた、知恵の味でもありました。

 

◎参考にした本/「九州・沖縄 食文化の十字路」(豊田謙二/築地書館)、「聞き書 長崎の食事」(月川雅夫ほか編/農山漁村文化協会)

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