第383号【草花よもやま話】
花の名前は「大和なでしこ」。その姿は小さいけれど美しい。日本女性の清楚さや美の代名詞でもあります。世界一という快挙を成し遂げ、日本中に元気を与えてくれた「なでしこジャパン」。彼女たちも個性派揃いでしたが、植物のなでしこも、花の色合いや表情もさまざまです。
園芸店では、なでしこの中でも石竹(せきちく)と呼ばれる種類を多く見かけます。石竹は「唐なでしこ」とも呼ばれ、古く中国から渡ってきたとか。それに対して、もともと日本に自生していたものを「大和なでしこ」とか「河原なでしこ」と呼んで区別しているそうです。「大和なでしこ」の花は、石竹よりも花びらが細く優美な印象。あらためて日本人女性の美に思いをめぐらせるのでした。
「大和なでしこ」、「唐なでしこ」…。そういえば「阿蘭陀なでしこ」の異名を持つ花もあります。それは「カーネーション」。江戸時代にオランダ船が出島に運んできました。本来は初夏の花ですが、いまでは一年中出回っています。
なでしこは、いまが花期(初夏~秋)ですが、この時季、長崎のまちでは夾竹桃(きょうちくとう)の花も盛んに咲いています。インド原産の夾竹桃は、江戸時代に中国を経由して長崎に渡ってきたといわれています。3~5メートルほどの常緑低木で、ピンクや白、薄い黄色の花を付けます。その花びらは強烈な日差しにさらされながらも、やさしい表情をしています。長崎では、庭木のほか広場などにもよく植えられています。暖地に育つ植物なので、東北など寒い地域ではたぶん見かけない樹木です。
夾竹桃の花は、長崎に原子爆弾が落とされたあの夏の日にも咲いていました。当時の様子を記した被爆者の話にも登場します。原爆慰霊碑の周囲にも植えられ、毎年、慰霊に集まる多くの人々の気持ちをなぐさめています。
話はガラリと変わりますが、涼しい夏を演出するために、金魚を泳がせたガラス鉢を玄関先などに置いているご家庭もあることでしょう。そんな夏の風物詩でもある金魚の姿によく似た葉っぱがあるのをご存知でしょうか。「金魚葉椿」というのですが、写真は花が終わり頃の4月中旬に撮ったものです。長崎~五島の旅客船が発着する長崎港「大波止」近くの街路樹で見つけました。
ちなみに、五島は椿の生産地として知られ、良質の椿油は特産品のひとつです。ある大手化粧品メーカーは、五島市と新上五島町をヘアケアブランド商品の主原料の産地として指定し、植樹や環境保全などを展開していくとか。「椿の島・五島」の知名度がますます高まりそうです。
地域を問わず、身近なところでちょっと目を凝らせば、気になる植物との出合いが、きっとあるはず。たとえば、長崎市街地では、茎が円柱ではなく、なぜか四角ばった形をした「四方竹(しほうちく)」(長崎市鳴滝/シーボルトの鳴滝塾跡)や、肥り気味のお父さんのお腹のような姿をした「トックリの木」(長崎市上西山町/長崎公園内)などがあります。この夏、気になる植物を見つけて、子供たちと一緒に自由研究をしてみませんか?
◎参考にした本/「日本大歳時記・夏」(講談社)