第376号【眺めのいい公園へ(大浦地区)】
長崎の市街地を歩いていたら、「がんばれ東北号」と掲げた路面電車に出合いました。どこか懐かしい昭和の雰囲気が漂うその車体。聞くところによると、かつて仙台市内を走っていた電車で、30数年前に譲り受けたものだそうです。乗り込んでみると運転席のそばに東日本大震災の被災地に向けての募金箱が設置されていました。いま、長崎のまちのあちらこちらで目にする「がんばろう、東北」の文字。長崎にとって少し遠い地に思えた東北も、いろいろなところでつながりあっていたことに改めて気付かされています。ともに、支え合っていきましょう。
さて、今回は長崎市大浦地区の高台にたいへん眺めのいい公園があると聞いて行ってきました。大浦地区といえば、大浦天主堂や洋館群など異国情緒漂うまちとして知られるところ。南山手のグラバー邸もすぐ近くにあり、観光客の姿が絶えません。眺めのいい公園は、大浦地区のなかでもそうした観光スポットから少し離れた「出雲」と呼ばれる地域にあります。
スタート地点は、路面電車の電停「石橋」(4番系統の終点)。港とは逆の方向に向かって歩きはじめると、すぐに何軒かのクリーニング店が目を引きました。いずれも古いお店のようで年季の入った看板を掲げています。実は明治期の大浦地区には88軒ものクリーニング店があり、居留地に住む外国人や各国の艦船御用達として商売をしていたそうです。まちを流れる大浦川が洗濯場で、当時はお米を研げるほど澄んだ水が流れていたとか。古い看板のクリーニング店はそんなまちの歴史を思い出させてくれました。
スタートから7分。「大浦国際墓地」(長崎市川上町)がありました。かつての外国人居留地に隣接するこの墓地は1861年(文久元)に設けられたもの。主に外国の艦船の乗組員が葬られています。1867年(慶応3)7月に起きたイカルス号事件(長崎の花街・丸山でイギリス軍艦の水夫2人が斬られた事件で、その犯人として海援隊のメンバーが一時疑われた)の被害者である水夫たちもここに眠っているそうです。
大浦国際墓地近くのお墓の坂道をどんどん登ると、くだんの眺めのいい公園にたどり着きました。公園の名は、「出雲近隣公園」。ちょうど1年ほど前に完成した公園で、大正から昭和まで利用された出雲浄水場の跡地を利用したものです。もともと桜の名所だったそうで、公園下の土手には何本もの桜の木が満開を迎えていました。
それにしても、ほんとうに眺めのいい公園です。長崎港の海面が少し見え、奥行きのある大浦地区を一望。背後は、星取山(ほしとりやま)、東にドンの山、西に鍋冠山(なべかんむりやま)の山頂近くを望みます。山肌を埋め尽くすように建つ家々や坂段の風景は、景勝地で知られる鍋冠山からとはまた違った趣きで、斜面地に暮らす長崎の人々の息吹が感じられるようです。ぜひ、一度足をお運びください。