第371号【長崎県亜熱帯植物園~グラバーゆかりのランほか~】

 大寒が過ぎて、見上げる空に何となく早春の光が感じられるようになりました。長崎のまちは「旧正月(春節)」を祝う「ランタンフェスティバル」(平成23年2月3日~2月17日開催)の準備がはじまっています。季節も人も、着々と春に向かって動いているのですね。

 

 今回は、一足早く春めいた気分を味わいたくて、「長崎県亜熱帯植物園」に行ってきました。この植物園は、長崎駅から車で45分ほどの長崎半島の最西南端に位置する野母崎(のもざき)と呼ばれるエリアにあります。野母崎は、半島周辺を流れる対馬暖流の影響で、長崎市内でもとくに温暖な気候で知られるところです。たとえば冬場、長崎の市街地やその近郊に交通機関がマヒするほどの積雪があったとしても、野母崎の平地で雪が積もることはないといいます。また、霜も降りず、熱帯や亜熱帯の植物が育ちやすい環境なのだそうです。




 さて、「長崎県亜熱帯植物園」は、日差しがたっぷり降りそそぐ丘の上にあり、美しい橘湾を隔てて天草や雲仙岳を見渡せます。斜面を利用した広い敷地には、地中海風の庭園やサボテン園をはじめ各種温室などが設けられ、全部で約1200種、4500本もの亜熱帯や熱帯の植物を楽しむことができます。どの季節に出かけても、折々に見頃の植物が出迎えてくれ、植物好きにはたまらないところです。この時期、屋外ではパンジーや椿、大温室ではカリアンドラ(中南米原産)やブラジルデイゴ(ブラジル原産)、ナンヨウザクラ(キューバ原産)などが個性的な花を咲かせていました。




 さて、今回いちばんのお目当ては、日本最古の洋ランといわれる、「シンビジウム・トラキアナム」を見ることでした。1859年(安政6)、グラバーが上海から長崎に持ち込んだもので、のちにグラバーの庭師をしていた加藤百太郎氏が譲り受け、以来、その子孫によって大切に育てられたたいへん貴重な原種ランです。開花時期に合わせて、毎年この時期に特別展示をしています。




 通称「グラバーさん」とも呼ばれるこのランは、ベージュと茶色のシックな色合いの花を咲かせます。今年は寒さが厳しかったこともあり、このときはまだ固いつぼみの状態。開花は2月中旬頃になるそうで、あらためて出直すことにしました。同じ温室では、「長崎朧」、「長崎娘」など長崎で交配されたランをはじめ、カトレアなどさまざまな種類の洋ランが美しい花を咲かせていました。いずれも美と個性にあふれ、時間を忘れて見入ってしまうほど。多くの人々をとりこにするランの魅力を垣間みることができました。




 「ハイビスカス温室」へ足を運ぶと、ここでも満開の花々に出迎えられました。大きさ、形、色合いなど変化に富むハイビスカスの花。南国ムードあふれるその姿は心までパッと明るくしてくれます。




 海側に近い歩道で耳を澄ますと聞こえてくる、潮騒の音。いろいろな野鳥とも出合えた長崎県亜熱帯植物園。子供たちのための広場もあり、家族でのびのびと自然を楽しめます。ぜひ、お出かけください。




◎取材協力/長崎県亜熱帯植物園(長崎市脇岬町833)

長崎県亜熱帯植物園は2017年3月31日閉園いたしました












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