第370号【長崎風肉団子、フルカデン】
寒いですね。先日、炬燵でのんびりテレビを見ていたら、スウェーデンの家庭料理「ミートボール」が紹介されていました。コケモモのジャムを使ったソースでいただくのがミソなのだそうです。海外通の友人によると、ヨーロッパ各国には、そうした肉団子系の家庭料理がいろいろあり、たとえばデンマークには、卵などのつなぎを入れて練った牛や豚のひき肉を、スプーンなどですくってフライパンに落とし小判型に焼いた「フリカデラ」と呼ばれる料理があるそうです。
「フリカデラ…」。長崎のことをよく知る方なら、この料理名にピン!と来たかもしれません。長崎には、「フルカデン」(フルカデールともいう)という牛ひき肉を使った西洋由来の伝統料理があるのです。「フルカデン」は、地元では牛かんとか、牛蒲鉾とも呼ばれる料理で、形はデンマークのそれとよく似た小判型です。ちなみにドイツにも「フリカデレ」という同じような料理があるそうです。
長崎の「フルカデン」は、「テンプラ」「パスティ」「ヒロウズ」「ヒカド」「ゴウレン」などと並んで、いまでは広い意味での「南蛮料理」という言葉でひとくくりにされています。こまかくいうとそれらの料理は、戦国末期から江戸時代初めにポルトガル人らが伝えた料理(南蛮料理)、出島のオランダ商館で作られていた料理(紅毛料理)に分類されます。もしかしたら中には、明治以降、居留地の外国人との交流の中で伝えられた料理もあるかもしれません。はてさて、「フルカデン」はいずれの時代に伝えられたのでしょうか。真相は定かではないようです。
「フルカデン色繪の皿に盛りてきぬ 迎陽亭の秋の夜の卓」。歌人・佐佐木信綱が昭和4年秋に長崎を訪れたときに詠んだものです。迎陽亭(こうようてい)は、文化元年(1804)に開業した料理屋で、長崎奉行所各藩に利用された由緒あるところです。明治~大正にかけても、夏目漱石や北原白秋など多くの有名人が訪れました。信綱にとって、フルカデンと称して出された一皿は、異国情緒あふれる長崎そのものだったのかもしれません。
さて、「フルカデン」は、和風のミニハンバーグみたいな料理です。簡単なので作ってみませんか。
2人分:(1)合い挽き肉150g、タマネギ1/3個みじん切り、卵1個、小麦粉大さじ1、塩と砂糖各小さじ1/2を、ボウルに入れ、ハンバーグを作る要領で、ねばりが出るまでよく混ぜ、全体を8等分して小判型にまとめ、油で揚げます。このとき、表面を少し焦がすくらいになってもOKです。 (2)別鍋で沸騰させていたお湯に(1)を入れ3分ほどゆがいて油抜きをし、取り出します。(3)鍋にだし汁をつくり、醤油と砂糖で味を整え、(2)と付け合わせにする野菜を入れ、軽く煮たら、出来上がりです。
あっさり味がお好みの方には、ハンバーグよりも食べやすいはずです。また、ブラウンソースで煮込めば、洋風にも仕上がります。ぜひ、お試しください。
◎本年もよろしくお願い申し上げます。