第364号【秋、懐かしい味が恋しい季節です】
賑やかな「長崎くんち」が終わって、長崎のまちはほっとひと息。祭りの間、我が家では小豆ごはんや煮しめ、ざくろなますといったおくんちの定番メニューが食卓に並び、お祭り気分を味わいました。この季節、そうした伝統的な料理を食べる機会が多いせいもあってか、昔ながらの味に何となく気持ちが向かいます。たとえば、祖母や母親が手作りでこしらえてくれた素朴なお菓子。今回は、そんな懐かしいおやつをいくつかご紹介します。
60~70代以上の方々にとって、子供時代のおやつといったら、「はったい粉」ではないでしょうか。30代以下では知らない方も多いようですが、「はったい粉」は大麦を炒ってこがし、ひいて粉にしたもので、関東方面では「麦こがし」と呼ばれているそうです。五島列島で子供時代を過ごした70代の女性は、「砂糖を混ぜ、お湯で練って食べるんだけれど、食べるものが少ない時代、これでお腹をふくらませていたのよ」と話してくれました。関西出身の60代の男性も、「当時のおやつといえば、やはり、はったい粉でしょう」。また、長崎の60代の男性は、「お腹の調子が悪いとき、はったい粉を食べさせられた」と、薬の役割も果たしていたことを教えてくれました。
さて、昔懐かしいおやつといえば、やはり、やせた土地でもたくましく育つサツマイモを材料としたものが多いようです。たとえば、「石垣まんじゅう」。ゴロゴロと混ざったサツマイモが石垣のようにみえるから「石垣まんじゅう」というらしく、いまでは、大分県の郷土料理のひとつとして紹介されているようですが、長崎でも昔はよく作って食べていたようです。いまも長崎のおまんじゅう屋さんなどでよく見かけます。
主な材料はサツマイモと小麦粉。作り方はとても簡単で、1、サツマイモを1センチほどの角切りにする。2、小麦粉(サツマイモと同量)に塩少々と水(小麦粉の約2/3量)を加えてサックリと混ぜ生地を作る。3、2の生地に1のサツマイモを加えて混ぜる。4、適当な大きさに分けて丸め、15分ほど蒸して出来上がりです。生地とサツマイモの甘みが塩で引き立てられて、おいしい。とても素朴な味わいです。
軍艦島(端島)を沖合い望む長崎市の高浜地区にもサツマイモを使った「イモヨセ」というお菓子が伝えられています。小麦粉や白玉粉などを加えて作る、しょうが風味のお菓子で、見た目はイモヨウカンのようですが、そんなに甘くありません。また、もっちりとしていますが、五島名産のかんころもちとも少し違った食感です。いまのように食材が豊富ではなかった時代、手に入る材料で、少しでも腹持ちよく、おいしく家族に食べてもらおうとした母親の工夫と愛情が感じられます。
昔懐かしいおやつに共通しているのは、手作りで、材料も作り方もシンプルだということ。当時の子供たちは、お腹いっぱい食べられないというつらい経験を通して、食べ物の大切さや素材そのもののおいしさ、作る人の気持ちなど、とても大事なことを身を持って学ばれたのだと思います。