第353号【松島の桜坂(西海市)】

 桜前線はいま、本州の最北端あたりでしょうか。宮城、岩手、秋田、青森などの東北地方では、ゴールデンウィーク中に見頃を迎えるところも多いのでしょう。毎年全国ニュースで満開が伝えられる青森の弘前公園の桜や秋田の武家屋敷の枝垂れ桜。ぜひ、いつか訪れてみたいものです。


 すでにツツジやサツキの季節に移った長崎。桜の満開は1カ月ほど前の3月末頃でした。今回は、ちょうどその時分に訪れた松島(長崎県西海市大瀬戸町)の桜の名所「桜坂」をご紹介します。


 長崎駅から、路線バスや船を乗り継いで約2時間ちょっとで行ける松島は、瀬戸港(大瀬戸町)の沖合いに浮かぶ離れ島です。瀬戸港からの所要時間は、市営交通船でわずか10分。周囲16km、面積6.36㎡の小さな島で、約680人が暮らしています。松島を擁する西海市は、美しい海岸線と島々で知られる風光明媚な地域として知られ、西海国立公園、大村湾県立公園、西彼杵半島県立公園の3つの自然公園にも指定されています。そうした景観の一部を成す松島は、小さいながらもダイナミックで、気持ちのいい自然を楽しめる島なのです。




 さて、「桜坂」ですが、とてもシンプルなこの名称で呼ばれる桜の名所は、全国各地にあると思われます。その中で、ここ松島の「桜坂」がほかと一線を画する理由は、現在、大河ドラマなどで活躍中の福山雅治さんゆかりの場所とされているところにあります。それは、20数年前、長崎市出身の福山さんが上京する前のこと。高校卒業後に勤務した電気会社関係の仕事で松島を訪れたとき、島の「桜坂」を見たかもしれないといわれ、のちのヒット曲「桜坂」のイメージにもつながっているのではないかと地元ではいわれているのです。




 そうしたことから、ここ数年福山さんのファンを中心に注目を浴びて地元でも盛り上がり、今年は3月下旬に「第1回桜坂まつり」も開催されました。松島の「桜坂」は、島の基幹産業である「松島火力発電所」の社宅区域へ通じる坂道のことで、約600m続く道の両脇には、170本ほどのソメイヨシノが植えられています。島の方の話によると、ここは地元では30年くらい前から桜の名所として知られていたとか。「福山さんをきっかけに、多くの人に見てもらえるようになり、桜も喜んでいるはず」とおっしゃっていました。「桜坂」そばのバス停は、この3月から、「遠見寮下(とおみりょうした)」という名から「桜坂」に名称に変わりました。島の新名所になったことがうかがえます。




 桜坂の満開の桜を見上げながらそぞろ歩けば、ウグイスの鳴き声が聞こえてきました。やさしい薄紅色の花びらと、向こう側に見渡す海の色のコントラスの美しいこと。街の喧噪をすっかり忘れてしまいます。「桜坂まつり」の出店では、島内産の小麦粉で作ったという「島うどん」をいただきました。コシのある太い麺と潮の香りのする出汁がおいしかったです。




 松島は、古く港町として繁栄。幕末には長州藩士の木戸孝允(桂小五郎)が訪れ、船着き場近くにあった三国屋に宿泊し、地元・大村藩の重役らに密かに倒幕の話をしたというエピソードもあります。大正から昭和初期にかけては炭坑の島として栄え、全盛期の人口は1万人を越えたそうです。島の北側にはめずらしい「赤い砂浜」、西側には五島灘を見渡す「日本一小さい公園」など、まだまだ見どころ満載です。また、別の季節にご紹介します。





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