第340号【五島に伝わる祝い菓子、じょうよかん】
商店街へお買い物に出ると、店頭には旬の野菜や果物が盛りだくさん。収穫の秋を感じて幸せな気分になります。いつの季節にも売っているジャガイモ、サツマイモ、サトイモといったイモ類も、いまなら採れたてとあって、一段とおいしい。旬の力ってやっぱりすごいですね。
イモ類で思い出したのが、以前、五島列島の中通島(なかどおりじま)でいただいたことのある「じょうよかん」とよばれる手作りのお菓子です。主原料は、ツクネイモと米粉(上新粉)。「じょうよ饅頭」の皮や「かるかん」に似た真っ白で弾力のある生地が特長で、砂糖の甘さとツクネイモの風味が効いた素朴な味わいです。聞けば、昔からその土地の家々でお祝い事があるたびに作っている、いわばハレの日のお菓子だそうです。
美しい海に囲まれた五島列島は、土地が狭くやせているため、古くからそのような厳しい環境でも育つサツマイモが主に作られて来ました。サツマイモを主原料にしたカンコロモチは五島列島の味としてよく知られています。一方、米や米粉は貴重だったため、昔は祝い事のときにしか食べなかったといいます。「じょうよかん」には、今もそのなごりがあるのです。
ところで、「じょうよかん」や「じょうよ饅頭」の「じょうよ」は、漢字では「薯蕷」と書きます。それは、すなわち山のイモ(ジネンジョ、ツクネイモ、ヤマトイモなど)のことだそうです。また、そういった和菓子は、昔は身分の高い者しか食べることができなかったことから、上に用いるという意味の「上用」から来たともいわれています。
「じょうよかん」作りにチャレンジしてみました。ツクネイモ、上新粉、砂糖、酒、卵白を混ぜたものを型に流し、蒸し上げます。五島列島の知人によると、以前は、すり鉢にそれぞれの材料を加えながら丁寧にすり混ぜていたので、けっこう手間ひまがかかったそうですが、いまでは、フードプロセッサを使うので、あっという間です。気を付けるのは、強火で蒸すときに「す」がたたないように加減すること。小1時間ほどで、五島列島で食べたあの味を再現することができました。
実は今回作った「じょうよかん」は、ツクネイモよりも粘りと甘みがあるヤマトイモを使いました。というのも、ツクネイモが長崎で出回るのは今月中旬からで、手に入らなかったのです。八百屋のおばあさんに、「じょうよかん」を作ると話すと、「ちょっと上等になるけど、おいしく仕上がるよ」と東北産のヤマトイモをすすめてくれたのでした。
素朴でやさしい五島列島の風土に思いを馳せながら作る、「じょうよかん」。そのやさしい味わいは、秋のお茶のひとときにぴったりのおいしさでした。