第327号【春の味覚、つわぶき】
ふき、わらび、新タマネギ、春キャベツ…。いま、店先を賑わせている旬の食材たち。その香り、風味、味わいは、冬の寒さをくぐりぬけたものらしく生命力にあふれ、とてもおいしいですよね。栄養価もGoodで、大量に出回るから安いのもうれしいところ。きょうはどれをいただこうかしらと迷えるなんて、本当にありがたいことです。
今回はそんな旬の食材の中から、つわぶきをご紹介します。キク科の常緑多年草で、日本では九州、四国、本州(中部)あたりまでの暖かい地域の海岸近くに自生する植物です。ですから、寒い地域の方にとっては馴染みがなく、つわぶきを長崎で初めていただいたという声もときおり耳にします。
つわぶきは同じ春の味覚である、ふき(蕗)と混同してしまう人もいるようです。実際、つわぶきという和名はふきに似ていることから付けられたとか。たしかに、長い茎の先に大きな丸い葉を付けた形は似ています。しかし、見比べたらその違いは歴然。ふきの葉はライトグリーンなのに対し、つわぶきは深みのあるグリーンでツヤがあります。
長崎地方では単に「つわ」と呼ばれることが多いつわぶき。早春から春にかけて、山野に自生しているものなどを採取して食用にしますが、街の中でも歩道脇の土手など身近なところによく生えているので、そこから摘んできて食卓にあげるという方もいらっしゃるようです。
つわぶきは、煮しめや味噌漬など、ふきと似たメニューに仕上げられますが、それぞれ独特のほろ苦さがあり、やはり違う味わいです。この時期、長崎の料亭や和食のお店では、旬のワカメ、タケノコと一緒に煮た「若竹煮」が春らしい一品として出されます。それぞれの家庭では、干し大根、こんにゃく、油揚げなどと煮たり、きんぴらやつくだ煮、おつゆの具などにしていただいています。
毎年、庭のつわぶきを摘んで食べているという料理上手の友人から、お茶漬け用の塩昆布(適量)と煮るだけのとても簡単でおいしいつわぶきメニューを教えてもらいました(みりんや醤油で好みの味に調整してください)。ぜひ、お試しください。
観賞用としても多く用いられ、多くは庭の立ち木の根締めに利用されているつわぶき。春は産毛を着た初々しい茎と葉、梅雨どきになると葉はよりつややかさを増し、さらに、晩秋から初冬にかけてあざやかな黄色の花を咲かせて楽しませてくれます。
つわぶきを調理するときは、ふきと同じく茎の皮をむいたり、水にしばらくつけてアクを抜くなどしなければなりません。忙しい現代人は、そのひと手間を敬遠しがちです。でも、子供の頃、家族の誰かと1本ずつ皮をむいた経験のある人は、指先をその渋みで黒くしながら、独特の香りに包まれたそのシーンをほのぼのと思い出されることでしょう。それは、子供にとって家族や自然の恵みとふれあういい機会でもありました。あらためて、ひと手間を惜しんではいけないなあと思うのでした。
◎ 参考にした本/大日本百科事典12巻(小学館)