第321号【家族の絆を深める雑煮】

 きょうはクリスマス・イヴ。気のおけない友人や家族と和やかなひとときを過ごせたらいいですね。クリスマスが過ぎるといよいよお正月の準備も大詰め。店頭はどこも、お正月関連の品々でいっぱいです。八百屋などでは長崎の雑煮に欠かせない唐人菜(長崎白菜)やくわいが待ってましたとばかりに店先に姿を現しました。




 雑煮といえば、地方色が多彩なことで知られています。おおまかに分けると、東は角餅ですまし仕立て、西は丸餅で味噌仕立てとよく言われます。長崎は、丸餅ですまし仕立てなので、東西混合のパターンというべきなのでしょうか?




 雑煮がお正月の定番になったのは、室町時代だといわれ、江戸時代の末期になると、多くの庶民が雑煮でお正月を祝っていたとか。前述の「東は角餅で…、西は丸餅…」というのも、江戸時代中期には、すでにそういうスタイルであったことが当時の関西人、関東人によって記されているそうです。




 雑煮に入れるお餅も地域や家庭によって、角餅や丸餅を、焼いたり、焼かずに煮るなどさまざまです。中でも珍しいのは四国の香川県で、小豆のあん餅を使います。あんが白味噌仕立ての汁によく合うのだそうです。また、北関東から東北地域にかけて、餅を入れない地域もあり、里いもや大根などの根菜類などを煮た雑煮を食すとか。雑煮にはその地域独自の風俗・風習が色濃く残っているようです。




 さて、長崎の雑煮は具だくさんで知られています。ブリ、伝統野菜の唐人菜、丸餅を基本に、鶏肉、かまぼこ類(紅・白・昆布巻)、大根、にんじん、ごぼう、里いも、くわい、しいたけ、たけのこ、きんこ(乾燥ナマコ)、卵焼など多いところでは全部で13種くらいがお椀に入ります。それより少なくても、具材の数は祝いをあらわす奇数にするのが決まりです。




 同じ長崎でも、やはり地域や家庭ごとに特色がありました。その昔、捕鯨が盛んだった長崎県北部出身の知人は、子どもの頃の雑煮には鯨肉が入っていたといいます。長崎の市街地でもそうしたお宅がありました。いまでは高価になった鯨肉ですが、お正月料理の食材として欠かせないお宅も多いようで、この時期、長崎の鮮魚店や精肉店などでは鯨肉が目立つ場所に並べられています。




 全国には長崎のように具材が多い地域もあれば、シンプルにお餅と青菜だけという地域もあります。今回、参考にするために地元や県外の友人たちと電話やメールで雑煮の話をしました。餅の形や具材の種類の違いに驚かされたりしながら、おおげさにいうと、日本の食文化の奥深さをしみじみ感じました。


 その中で、地元ではなくお祖母さんの出身地の雑煮をつくっているとか、嫁ぎ先の具材が実家と違っていてカルチャーショックを受けたとか、お嫁さんが来てからちょっと具材が変わったなどの話がありました。雑煮には、脈々と受け継がれる家族の歴史も込められているようです。年のはじめ、そんな雑煮を一緒に食べることは、家族の絆を大切にすることなのだとあらためて思いました。


 今年もご愛読いただきありがとうございました。どうぞ佳い年をお迎えください。


◎参考にした本/日本の「行事」と「食」のしきたり(新谷尚紀 監修/青春新書)、全集・日本の食文化第12巻~郷土と行事の食~(雄山閣出版)

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