第317号【おいしい『南蛮』あれこれ】
爽やかな秋空の日が続いています。晴天を利用して虫干しを済ませた方もいらっしゃることでしょう。東日本では各地で紅葉が見られはじめたようですが、長崎はまだちょっと早いよう。これからしだいに深まる秋。美しい季節をしっかり満喫したいものですね。
さて、秋は食欲の季節でもあります。先日、魚屋さんで体長12~15センチほどの小アジを手に入れました。そこのおかみさんによると、マアジは春から夏にかけてよく出回るそうですが、小アジはちょうど今頃だそう。大衆魚で一年中あるものと思っていましたが、やはりそれぞれ旬があるのでした。
新鮮な魚介類がふんだんの長崎。この日の小アジは10匹180円でした。刺身で食べる方も多いのですが、わが家では、もっぱら南蛮漬けです。ぜいご、はらわた、えらを除いて、小麦粉をまぶしてカラリと揚げ(素揚げでもいい)、酢・砂糖・だし汁・醤油・唐辛子などで作った三杯酢にジュッと漬け込みます。味がしみ、骨までやわらかくなったらいただきます。アジはほかの魚と比べてカルシウムが豊富。頭から丸ごといただける南蛮漬けは特におすすめなのです。
南蛮漬けといえば、長崎の郷土料理には「紅さし」の南蛮漬けがあります(当コラム169号でもご紹介してます)。小アジの南蛮漬けと同じ作り方ですが、「紅さし」独特の風味があり、微妙に味わいも違います。
小アジの南蛮漬けに舌鼓を打ちながら、ふと思ったのは、「南蛮」とは一体何なのかしら?ということ。食べものでほかに「南蛮」の言葉が付くものは、カレー南蛮とか、鴨南蛮があります。いずれも、ネギや唐辛子などでピリ辛風味。また、宮崎県のローカルフードとして有名な「チキン南蛮」、東北あたりでは、江戸時代からの郷土料理で、ニンジンやゴボウ、トリ肉を刻んで唐辛子でピリ辛に味付けした具が入った「南蛮もち」というものがあるそうです。同じ「南蛮もち」でも関西あたりでは、クルミが入りのもちをそう呼ぶところもあるとか。
カステラやボーロなどは総称して南蛮菓子と呼ばれます。さらに食材では、赤唐辛子、トウモロコシ、カボチャなどが「南蛮」の別称を持っています。当社のホームページに掲載している「長崎の食文化」(越中哲也氏著)の中の「西洋料理編(一)」によると、南蛮料理は、我が国初期の西洋料理のことで、「南蛮人(ポルトガル人やスペイン人)が伝えたからそう呼ばれるようになったとのこと。とにかく、「南蛮」という名が付いたものは、その昔、西洋や東南アジアなどから海を渡ってきた食材だったり調理法だったりするものをいうわけです。
「南蛮料理のルーツを求めて」(片寄真木子著)という本によると、ポルトガルには今も、小アジによく似た魚を使ったまさに日本でいう南蛮漬けとそっくりの「エスカベージュ」という料理があるそうです。小魚を油で揚げて酢に漬け込むという調理法もやはり、もともとは日本にはなく、南蛮船が長崎にやってきた時代に伝えられたとされているといいます。
カステラのルーツといわれる、「パン・デ・ロー」もポルトガルですし、ほかにもきっとポルトガルをルーツにした日本の食があるはず。「南蛮」といいながら実は戸唐(中国)がルーツだったりするものもあるよう。「南蛮」が付く食べものは、まだまだ面白い発見がありそうです。
◎参考にした本や資料/「南蛮料理のルーツを求めて」(片寄真木子著)、長崎の食文化「西洋料理編(一)」(みろくやHPより)