第309号【長崎の夏の美味、草加家の大粒茂木びわゼリー】
ひんやりと冷たい一さじが、ほてった夏の喉を潤す「びわゼリー」。日本一のびわの生産量を誇る長崎県ならではの銘菓のひとつです。ジューシーなびわの実をゼリーで包んだ「びわゼリー」は、長崎県下では、洋菓子店や和菓子店などを中心に、そのお店ならではの味が作られています。今回は、その中から特においしいと評判の草加家さんの「大粒茂木びわゼリー」をご紹介します。
「大粒茂木びわゼリー」は、ゼリーの色がほんのり琥珀色。今にもとろけそうなゼリーを、そっとすくって口にふくめば、ふるふるの食感に思わずニンマリ。キレとコクのある独特の甘味で、清涼感のある後味です。スプーンがびわにたどり着く前に、満足した気分になれるおいしさなのです。「めざしたのは、ゼリーだけでも食べたくなるようなおいしさです。徳島産の和三盆糖と、厳選した国産はちみつで、スーっときれるような甘味と、コクを出しました」と説明してくださったのは、草加家の二代目店主の髙木龍男さん。ゼリーが琥珀色なのは、そんな独自の工夫があったからなのです。
草加家さんは、佐世保の市街地から少し離れた、田んぼに囲まれたのどかな地域にお店と工場があります。工場を訪ねてびわゼリーの製造の様子を見せていただきました。10人に満たないスタッフが、それぞれの持ち場で真剣な表情で作業中。どの工程も丁寧な作業ぶりで、一つひとつの製品に目が行き届いているのが印象的です。ゼリー液を作るところでは、家庭にもあるようなサイズの鍋を使い、温度を細かくチェックしながら、つきっきりで出来上がりのタイミングをはかっていました。「ゼリー液はちょっとした温度変化で固さが微妙に変わるので、むずかしい作業なんです。小さめの鍋で少量ずつ作っているのはそのためです」。
びわゼリーの容器も特別なものを使っていました。「フタのフィルムは酸素を吸着する特殊なもので、酸化による中身の劣化を防ぎます。これにより品質保持期間も通常の商品より長くなります。このフィルムを採用しているのは日本ではまだとても少ないはず。カップの方もこのフィルムに合わせた特殊なものです」。コストがかかっても、何とかよりよいものを求めようとする髙木さんの姿勢には、誠実さが感じられます。食の安心・安全を求める私たちにとって、そんな作り手の存在は、とってもありがたく、うれしいことです。
「茂木びわは、長崎県内各地で作られていますが、その中で私は、収穫時期が早い茂木地区産で、しかも大ぶりのものを使うようにしています」という高木さん。そこには生産者に対する思いがありました。茂木地区は、江戸時代、中国のびわのタネをもとに栽培がはじまったところで、「茂木」というびわの品種の発祥地として知られています。「私が茂木地区にこだわるのは、昔ながらのやり方で、上へ高く伸びた木で栽培を続けているからです。このやり方だと、実が高い位置になるので、脚立などを使って管理や収穫をしなければならず、きついし、手間がかかります。他の生産地では、普通に立ったままで作業できる低木での栽培方法が増えているのです。茂木地区の生産者があえて栽培方法を変えないのは、びわづくりに対するこだわりをはじめ理由はいろいろあるようですが、私は、そんな農家の方々を、自分の仕事を通して応援したいのです」。
今回、「大粒茂木びわゼリー」を通してご紹介した草加家さんは、実はお店の名前の通り、草加せんべいのお店として半世紀前に創業しました。東京で修業した先代は、今も現役で草加せんべいを焼き続ける九州で唯一の人だといいます。また、草加家さんは現在、かんころ餅のお店として地元では知られています。さらに、数年前からはお芋を使った身体にやさしいパン作りもはじめ注目を浴びています。「いろいろなものを作っていますが、自分の中ではごく自然な流れなんです」とおっしゃる高木さん。その多彩な商品は、いずれも原材料の生産者やお客様とのつながりを大切にする中で生まれたものでした。草加家さんについてもっと知りたい方は、ぜひ、ホームページhttp://soukaya.co.jpをご覧ください。
◎ 草加家 佐世保市重尾町210
電話0956―38―3808 FAX0956―38―1490