第306号【長崎ゆかりの花々(春~初夏編)】
先日、カーネーションを買いに花屋へ行くと、その種類の多さにあらためて驚かされました。赤、白のほか、イエロー系やピンク系など多彩な色合いがあり、よく見ると姿も個性的です。どれも素敵だけれど、母の日はやっぱり赤を贈るべきなのかしらと思っていたら、「みなさん、お好みで選ばれていますよ。ピンクやイエローのカーネーションもよく出ていますね」と花屋さん。また、母の日だけ注目される花かと思いきや、かわいらしくて芳香があり、花もちもいいので、ふだんからバラと並んで人気ものなのだそうです。
カーネーションの原産地は南ヨーロッパおよび西アジア。ナデシコ科の多年草です。花屋さんでは一年中見かけますが、本来は初夏が開花の時期。俳句の世界では夏の季語で知られ、和蘭石竹(おらんだせきちく)、和蘭撫子(おらんだなでしこ)とも呼ばれています。「和蘭」とくれば、出島がらみの話がありそうです。調べるとすぐにわかりました。日本へは江戸時代にオランダ船によって輸入されたそうです。ただし、現在、花屋さんで見かける花びらがフリル状になった八重咲きタイプではなく、花びらが5枚の原種に近い種類だったようです。
カーネーションのように、江戸時代にオランダ船が日本に初めて運んできた花で、今も切り花として私たちの暮らしに身近な存在は他にもあります。春~初夏の花としては、ストック(南ヨーロッパ原産)、シロツメクサ(ヨーロッパ原産)、カラー(南アフリカ原産)など。夏のヒマワリ(北アメリカ原産)、オシロイバナ(メキシコ原産)などもそうです。原産地が世界各国に及んでいるところに、西欧の国々のダイナミックな各大陸と交流がうかがえます。
大陸と言えば、長崎県には4月末から5月初旬になると地元紙で必ず花の見頃がニュースになる中国大陸系の樹木があります。対馬・鰐浦(わにうら)のヒトツバタゴ(国の天然記念物)です。中国大陸に分布するモクセイ科の落葉高木で、白くて細い花びらのようなものがモジャッモジャッと咲いているのが特長的です。小さな入江を囲む山の斜面にたくさん自生していて、開花すると純白の花が緑の山に覆いかぶさり、まるで雪のようにも見えます。この白さが海を照らすようでもあることから、別名「ウミテラシ」とも呼ばれているそうです。
対馬は韓国との国境の島。その最北端からわずか49.5キロ先に韓国があります。一万年前まで大陸と陸続きだったといわれる対馬は、ヒトツバタゴのように大陸の流れをくむ植物や希少な生きものも多く、ツシマヤマネコなどが特に有名です。
長崎市内から対馬へのアクセスは、長崎空港(大村市)からの空路や、福岡に出て博多港からの船便で渡る方法などがありますが、なかなか行く機会がなく、実はヒトツバタゴの開花の光景は、地元の新聞やニュースの映像でしか見たことがありません。しかし、長崎市内では庭木として植えているお宅があって、同時期に白い花を見かけることがありました。先日も道すがら、あるお宅の庭先のヒトツバタゴを眺めていると、「この木は昔はめずらしい木だったらしく、何の木?という意味から、ナンジャモンジャとも呼ばれているそうですよ」と家の方が教えてくれましました。ユニークな複数の名前を持つヒトツバタゴ。それだけ人々の目を引く花だったのでしょう。
◎参考にした本など/大日本百科事典ジャポニカ4(小学館)、日本大歳時記~夏~(講談社)、長崎事典~歴史編~(長崎文献社)