第305号【自然と長崎の歴史を楽しむ長崎公園】
桜の花びらが散って、風薫る新緑の季節がやってきました。街を歩けば、日傘が欲しいほどのまぶしい日射し。長崎港を囲む山々の樹木は、まるでブロッコリーのようにモコモコと葉を茂らせ、早くも初夏の装いです。そんな話を北国の知人にすると、「やっぱり、南国・九州は違うね」と、電話の向こうからまだ肌寒い春を伝えてきました。南北に長い日本をあらためて実感する季節の変わり目です。
さて今回は、春の陽気に包まれた長崎公園を散策。ちょっとユニークな光景や史跡などをご紹介します。長崎公園は、長崎くんちで知られる諏訪神社のすぐ近くにあります(長崎駅から螢茶屋行きの路面電車で約8分、諏訪神社前で下車。そこから徒歩5分ほど)。かつて玉園山と呼ばれた丘陵地で、クスの巨木などの自然林が多く残る緑豊かな公園です。園内には、アナグマ、ウサギ、日本ザル、インドクジャクなどがいる「どうぶつひろば」もあり、子供連れのお母さんたちの姿をよく目にします。
長崎公園は、1873年(明治6)に制定(内務省第6号公布)された長崎でもっとも古い公園です。鯉の泳ぐ庭園風の池があり、その中央に、公園等の装飾用としては日本でもっとも古いとされる噴水(復元)があります。訪れたときはちょうど雨上がりだったこともあり、この池に棲む幾匹ものカメがお揃いで甲羅干し中でした。池のそばには、名物ぼた餅で知られる「月見茶屋」があります。地元では諏訪神社の参拝がてら必ず寄るという人も多いようです。
公園内ではユニークな木、珍しい木もあります。「どうぶつひろば」で見かけたのは、「多羅葉(たらよう)」というモチノキ科の樹木。葉の裏に先のとがったもので字や絵をかくと、くっきりと跡が残ります。昔はハガキの代用とされたことから、別名「ハガキの木」と呼ばれるそうです。また別の場所では、メタボな姿がほほえましい「トックリの木」にも出会いました。説明板によると、オーストラリア原産で、昭和7年に上海から長崎に運ばれてきたものとか。この木は、昭和初期の上海~長崎間の交流の歴史の証人でもあったのです。
園内には「東照宮」も祀られています。「東照宮」とは、徳川家康公を御祭神としてお祀りしている神社のこと。現地の説明板によると、1652年(承応元)、公園の入り口付近に僧・玄澄が安禅寺を建立されており、御神祭は、徳川家康東照公をはじめ徳川歴代将軍。かつては多くの人々の崇敬を集め、現在長崎公園になっている敷地にはさまざまな建物が造られていたそうです。今では、そういった建物は見られませんが、その参道の跡と思われる階段や、葵の門が記された石門が残されています。
長崎公園内には、長崎開港に大きな役割を果たした当時の長崎の領主・長崎甚左衛門、近代印刷技術の発展などに貢献した本木昌造など、長崎を舞台に活躍した人物の顕彰碑や、向井去来句碑、ピエール・ロチ記念碑など長崎ゆかりの文人たちの碑がたくさん点在しています。そういった碑をひとつひとつ見ていくだけで、長崎の歴史や文化の一端が見えてきて面白いものです。のんびりとした時間を過ごせて、気が向けば、歴史もたどることができる長崎公園。ぜひ一度、寄ってみてください。