第297号【長崎の古き良き果実・ゆうこう】
クリスマスが過ぎていよいよ今年もあとわずか。新年を迎える準備でお忙しい中、当コラムを読んでくださってありがとうございます。さて、今回は、新しい年に向けて、夢と希望のつまった長崎の果実「ゆうこう」をご紹介します。現代人が気にする健康づくりにも役立つ可能性を秘めたうれしい果実です。
「ゆうこう」は、ユズ、カボス、スダチ、レモンといった香酸柑橘類の一種です。見た目はユズや日向夏に似て、冬場の収穫時の色合いはレモンイエローならぬ「ゆうこうイエロー」と表現したくなるような明るくてやさしい黄色です。香りは、ユズよりも甘くまろやか。果肉は瑞々しくやわらかで、苦味がほとんどなく、レモンをかじった時のようなしかめっ面にはなりません。他の香酸柑橘類と同じように、主に肉料理、魚料理、酢の物などの調味料や薬味として使います。
「ゆうこう」は、もともと長崎市の限られた地域に分布していたもので、その独自性から長崎赤カブ、長崎白菜(唐人菜)、辻田白菜などと並んで、長崎の伝統的な農作物のひとつになっています。ところで、その分布地域は、土井ノ首(どいのくび)地区周辺、外海地区という、いずれもかつて深堀・鍋島藩領だった地域です。また、それらの地域の教会周辺などで多く見られたことから、同藩やかくれキリシタンに関係した歴史があるのではと想像したのですが、長崎市ゆうこう振興会会長の中尾順光さんによると、「残念ながら今のところそういった史料は見つかっていません。また、長崎という土地柄、中国、ヨーロッパなど、海外から渡ってきた可能性もありますが、ルーツは定かではないのです。ただ、江戸時代後半にはすでにこういった地域の家々の庭先などに植えられていたというのはわかっています」。
その「ゆうこう」が、専門機関の調査で新種の果実と判明したのは数年前のことです。それまで、地元の人にとってはあまりに身近な果実だったので、わざわざ調べることもなかったのでしょう。また、時代とともに日本の食が多様になる中、他の調味料に押され、「ゆうこう」の木は伐採されるなどして次第にその数は減ってきたのだそうです。
ここにきて、「ゆうこう」があらためて注目を集めているのは、新しい品種だったからだけではありません。長崎県果実試験場や地元大学で主要フラボノイドの量を調べた結果、身体にいい成分がユズ、日向夏などより多いことがわかり、機能性食品としての可能性が見えてきたからです。たとえば、果肉、果皮、種子には、血液中と肝臓の中性脂肪濃度を低下させたり、活性酸素の生成を抑制する働きのある成分が認められています。また、果肉には血液中のコレステロールを下げる効果もありました。中尾さんは、「健康飲料、化粧品、そして薬品など、いろいろな可能性を秘めています」と大きな夢をふくらませています。
現在、「ゆうこう」は、長崎市西山木場地区で栽培している中尾さんをはじめ市内の認定農業者8人による栽培がはじまったばかりです。「本年度の収穫は約1,000個を見込んでいます。まだ、生産量が少ないため、欲しいと思っても手に入らない方もいらっしゃるかもしれません。これから、がんばって生産を拡大していきます」。そんな中、ゆかりの地・外海地区にある「道の駅・夕陽が丘そとめ」では、今月初旬に「ゆうこう」の初売りまつりが行われました。「ゆうこう」をはじめ、パン、クッキー、ママレード、こんにゃく、ちらし寿司など、「ゆうこう」のやわらかな酸味と香りをいかした食品がいろいろ販売されていました。
「ゆうこう」から生まれるおいしい食は、人と人との「友好」のきっかけをつくり、身体にも「有効」と、良いことづくめ。来る新年、長崎ブランドのひとつとしての発展に大きいな期待が寄せられています。
◎ 「ゆうこう」など長崎市の伝統的な農作物に関するお問い合わせは、長崎市水産農林部水産農林政策課
◎参考資料/「ゆうこう」リーフレット(長崎市農林部地産地消推進課・長崎市農林部農林振興課)