第294号【世界で認められた長崎・明治屋商店のソーセージ】
数カ月前、長崎の地元紙にうれしいニュースが掲載されました。長崎のハム・ソーセージ製造販売の老舗、「明治屋商店」のソーセージが、ドイツ・フランクフルトで5月に開かれた国際食肉産業専門見本市「IFFA2007」の『ハム・ソーセージ国際品質コンテスト』ソーセージ部門で金賞と銀賞を受賞したのです。
ドイツといえばビールの本場で知られていますが、同時に「ヴルストラント(ソーセージの国)」と言われるほど、たくさんの種類のソーセージがあることでも知られています。3年に1度開催されているこのコンテストは、本場ドイツで130年の歴史を誇り、安全性、品質、味など何項目も審査され、おいしくて誠実な製品が選ばれるといいます。世界中からその道の職人たちが競って出品する中での今回の受賞。まさに世界に認められた明治屋商店のソーセージなのです。
「明治屋商店」は、大正10年(1921)創業。長崎で生まれ育った会社ですが、業務用の商品が中心だったため、一般消費者にはその名はあまり知られていなかったようです。「長崎市内の方でしたら、学校給食などでうちのハム、ソーセージ、ベーコンなどを食べていただいたと思います。また、地元のホテルやレストラン、福岡など九州各県のコンビニのお弁当にも使っていただいています」と代表取締役の田川俊幸氏。
今回、受賞したのは金賞がリオナソーセージ、ハンターソーセージ、銀賞がビアシンケンの全3品で、いずれもヨーロッパではオーソドックスなタイプです。ハム・ソーセージ作りの職人でもある田川氏がドイツ式の製法にこだわって作りました。「牛肉と豚肉をなめらかな絹びきにしたものをベースにしたソーセージで、増量剤、化学調味料、合成着色料などは添加していません。豚肉は新鮮な長崎県産。牛肉は安全性で信頼できるオーストラリア産のモモ肉。どちらも自然な熟成でソーセージの結着力を高め、肉本来の力で固まらせています」。食べてみると、ほどよい弾力で口当たりがやさしい。デンプンやその他の添加物などを使用したタイプにあるプリプリ感とは違う食感です。
リオナソーセージは、ドイツの香辛料と塩味がほどよく効いた味わい。ハンターソーセージは、なめらかなソーセージに粗びき豚ウデ肉を混ぜ、ピスタチオをちりばめています。ビアシンケンは、角切り豚モモ肉を混ぜ、ビールによくあうスパイスの効いたおいしさです。「日本ではソーセージを焼いて食べる方が多いようですが、まずは、そのままクラッカーやパンなどにのせて食べていただきたいですね」。
風味豊かな香辛料、特殊なケーシング(詰め物)はドイツ製。塩は天草の天日塩を使っています。「ドイツ製の塩は、辛さにカドがあるのです。それで、まろやかな辛さの天草の天日塩にしました」。また、田川氏がドイツ式の製法にこだわったのは、「素材を大切にした作り方をするから」だといいます。手間がかかり大量生産がしにくい製法ですが、製品のひとつひとつに目が行き届くこのやり方を貫いているのです。「食品の仕事に携わるものとして、常にお客様の喜ぶ顔を想像して、おいしく、安全なものをと思っています」。
今回、初めての出品で、めでたく受賞を果たした明治屋商店のソーセージ。しかし、当初は出品する予定はなかったそうです。「同業の方々との研修ツアーで『IFFA2007』を見学することになっていて、せっかくだから出品してみたらとすすめられたのがきっかけです」。長年、手作りにこだわって作り続けてきた職人の技が、こうして世界に認められたのでした。
◎取材協力/(有)明治屋商店
◎ 参考にした本/FOOD ‘S FOOD 食材事典(小学館)