第277号【桃カステラで春を祝おう】

 長崎のおめでたいお菓子といえば、桃カステラ。ほのかにピンク色の愛らしい姿は、桃の節句をはじめ結婚式や出産などのお祝い事に欠かせない存在です。桃カステラと言っても、長崎以外の地域の方にはほとんど馴染みがないと思います。その名を聞いて、桃の味がするカステラ?と思われる方が多いようですが、桃の果実は使っていません。




 桃カステラは、ポルトガル伝来のカステラ(スポンジ)の上に、中国で不老長寿の縁起物とされる桃の姿をフォンダン(糖衣)で描いたもの。大人の手のひらいっぱいに乗る大きさで、高さは5~7センチほどあります。長崎では桃の節句が近付く頃、多くの和菓子店や洋菓子店の店頭を飾り、春の訪れを告げるのです。


 異国情緒あふれる長崎の歴史の中から生まれた、桃カステラ。カステラとフォンダンで桃をかたどった基本スタイルはどのお店も変わりませんが、味も表情もお店ごとに趣向を凝らし、個性がみられます。各店を食べ比べ、御ひいきの桃カステラを見つけるのも楽しいものです。


 さて、長崎の数ある桃カステラの中で、ここ数年、おいしいと評判を集めているのが、和菓子店「穂俵(ほだわら)」です。「穂俵」は、長崎の老舗洋菓子店「梅月堂」の和菓子部門として20年前にオープンしたお店。その桃カステラは、スポンジケーキを思わせるふんわりとした口あたりで、やわらかなフォンダンと絶妙なハーモニーをかもします。その姿も品があり、とてもやさしい表情です。




 ところで、「穂俵」を擁する「梅月堂」は、長崎ではめずらしく長い間、桃カステラを作っていませんでした。「梅月堂」は、長崎の中心商店街、浜町アーケード内に本店を構える明治27年(1894)創業のお店。地元では、知らない人はいないお店ですが、創業当時は和菓子専門店であったこことは、あまり知られていません。




 本格的に洋菓子専門店として歩みはじめたの昭和30年頃で、実はそれ以前までは、桃カステラを作っていたそうですが、本格的な洋菓子に専念したいという当時の経営者の強い思いから、一切作らなくなりました。とはいえ、お客さまからは、梅月堂の桃カステラを食べたい、作ってほしいという要望がずっと絶えなかったといいます。そうして、ようやく3年前、和菓子部門の「穂俵」から登場することになったのです。


 「穂俵」の和菓子職人さんによると、穂俵の桃カステラは、「長年培った洋菓子の技術でつくったスポンジの生地と、和菓子の技を活かしたもの。スポンジもフォンダンもやわらかな口あたりで食べやすい」といいます。桃を描いた上の部分は、「ボカシ」という和菓子の技でほのかな桃色のグラデーションを出し、ひとつひとつ手作業でなめらかなフォンダンを3回くぐらせ、ほどよい厚みと輪郭を整えています。


 また、「穂俵」には、桃カステラとは別に、「桃まんじゅう」もあります。こちらは、米からできた上用粉と山芋でつくったきめ細やかな皮で、しっとりとしたこしあんを包んだ上用まんじゅうです。桃カステラとはまた違った愛らしい桃の形と上品なおいしさで、根強いファンがいます。




 もうすぐ、桃の節句です。縁起物の桃カステラや桃まんじゅうで、うれしい春を呼びこみませんか?





※ 取材協力/「梅月堂」 HPアドレス http://www.baigetsudo.com/

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