第271号【長崎の伝統ハタ再現・小川ハタ店】

 長崎のハタはシンプルなひし形。国旗や家紋のように洗練されたデザインで、色も例外をのぞいて青、赤、白、黒の限られた色しか使いません。その独特の美しさは他の地域では見られないものです。今回は、長崎のハタの伝統紋様120種類を再現した小川ハタ店3代目の小川暁博さんにお話をうかがいました。




 「全国各地のハタの会の方々が、長崎のハタの紋様を見て、すごいとおっしゃってくれるんですよ」と話す小川さんは、長崎でただ一人のハタづくり専業の方です。小川さんの仕事場はハタ揚げの名所のひとつ、風頭公園のすぐそばで、一般の人もハタづくりの様子を見ることができる『長崎凧(ハタ)資料館』の中にあります。


 「長崎のハタはケンカ凧といわれ、ビードロヨマ(ガラスの粉をヨマにのりで付けた揚げ糸)を使い、空中で相手のハタの糸を切って遊ぶものです。私の自慢は、子供の頃からハタ揚げだけは上手かったこと。勉強はせずにハタ揚げばかりしてましたね(笑)」。とても気さくな人柄の小川さんは、ハタ揚げが好きで、好きで、いつの間にか風を読みながら巧みに操るコツと技を身に付けたのです。




 長崎のハタの由来は、17世紀にさかのぼります。中国やオランダなどから伝わったとされ、その種類も中国系、南方系とあります。長崎県内各地にはさまざまな伝統凧がありますが、長崎のハタは「あごばた」と呼ばれる種類で、南方系だと言われています。江戸時代には出島でオランダ人の付き人をしていたインドネシア人と、対岸の市中の人々の間でハタ合戦が行なわれていたそうです。


 さまざまな紋様がある長崎のハタ。家紋をはじめ国旗、縞模様、天体、鳥獣、家紋、オランダ文字などをモチーフにしています。中でも代表的なのは、赤、白、青の線が並ぶオランダ国旗のような「丹後縞(たんごしま)」だと小川さんは言います。「私が普段つくるハタの紋様は50種類ほど。今回の120種類の伝統紋様は、長崎の郷土史家として知られる渡邊庫輔(わたなべくらすけ)氏の『長崎のハタ考』(長崎民芸協会発行)に掲載されたものを再現しています。その中には初めて見る紋様もいくつかありました。シンプルだけど凝ったものもあり、昔の職人のセンスの高さを感じましたね」。




 昔ながらの作り方にこだわって念入りに再現する中、小川さんはかつてのハタ職人さんたちの仕事ぶりに感心しました。「材料を全くムダにしない作り方をしています。たとえば和紙。長崎のハタの紋様は筆で描かず、染色した和紙に紋様の型をとって裁断し、それを数種類張り合わせて作ります。昔の職人は、その型の取り方にムダを出さないような創意工夫が随所に見られました」。


 「伝統紋様のハタの再現に使用した和紙は、30数年間この仕事をした中で、こんなにいい色が出たのは初めてというほど上手く染め上がったものです」という小川さん。再現された120種類の伝統紋様のハタは、「長崎の凧(ハタ)図録」としてまとめられました。




 先代に、「とにかく数をつくれ。そうすれば上手になる」と言われたという小川さん。「ハタ作りは、タテ骨、ヨコ骨に使う竹の削り具合が微妙でむずかしいところ。これからも納得できる仕事をしていきたいですね」。




◎参考にした本や資料

長崎事典~歴史編~(長崎文献社)、長崎の凧(ハタ)図録(長崎ハタ揚げ振興会発行)

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