第268号【長崎のくんち料理】

 今年も大勢の人出で賑わった長崎くんち。じげもん(※生まれも育ちも長崎の人)の家庭では、昔から伝わる「くんち料理」が食卓を飾ったようです。こういった行事食は、祭りの気分を高め、季節の移り変わりも感じられて、いいものですね。四季折々に行事食を作る家庭は、ひと昔前に比べるとずいぶん減っているようですが、ぜひ、見直したいものです。


 長崎の庶民の間で食べ継がれてきた「くんち料理」とは、「小豆ご飯」、「どじょう汁」、「煮しめ」、「ざくろなます」、そして「甘酒」です。あなたの街の秋祭りの料理と比べて、いかがですか?品揃えが全く違うという地域もあることでしょう。共通しているのは、地元でとれる食材を利用していること、その街の成り立ちの影響を受けていることなどでしょうか。


 「くんち料理」の「小豆ご飯」は、おこわではなく、普通のごはんに小豆を入れて炊いたものです。「どじょう汁」は、白味噌仕立てで作りますが、今ではすっかり馴染みが薄くなっています。どじょうで思いだすのは、水郷として知られる福岡県柳川の「柳川なべ」ですが、くんち料理の「どじょう汁」はその柳川に由来があるようです。


 長崎の歴史に詳しい方によると、江戸時代初期の頃より、筑後川の川港を擁した柳川からは、長崎にも物資を運んでいて、その方面からの移住者も多かったそうです。くんちの踊り町のひとつに榎津(えのきづ)町がありますが、榎津は柳川の川港の地名です。「どじょう汁」は、そうした移住者たちにより、くんち料理の定番になっていったのかもしれません。


 「煮しめ」の材料は、さといも、れんこん、ごぼう、にんじん、こんにゃく、干ししいたけなど。季節の野菜がたっぷり入ります。70代のじげもんさんによると、煮しめに用いるさといもは、「赤さといも」だそうです。赤さといもは各地にあるようですが、長崎でも昔から作られている野菜のひとつだそうです。地元の八百屋さんによると、白さといもより煮くずれがしやすいが、甘くておいしいそうです。今は、地元より京都の料亭などによく出ていると言っていました。




 「ざくろなます」はだいこんのなますに、ざくろの実を混ぜたものです。長崎では毎年、ざくろがくんち前から出回りますが、「今年は台風13号の被害で、地元のざくろがほとんどなかった」と果物屋さんは言います。だからか、今年はアメリカ産の大きなざくろを店頭でよく見かけました。その実は、地元産より大きく、赤みも甘味もありますが、ざくろ独特の甘酸っぱさもその分強い感じ。

 あるご家庭の伝統で、3日間繰り広げられる長崎くんちの初日は「ざくろなます」、中日は「柿なます」、3日目は「しそなます」と、毎日変えるというところもありました。くんち料理を家庭ごとに調べれば、ユニークなルールやバリエーションが他にもいろいろあるかもしれません。








 「甘酒」は、今頃は母親が手作りするか、酒屋や和菓子屋で購入するところが多いようです。ひと昔前、じいちゃん、ばあちゃんと一緒に暮らした時代は、甘酒作りはお年寄りの役目でした。おいしい甘酒を作るには、温度や寝かせ方のあんばいなど、経験が必要だということなのでしょうか。お屠蘇も家長が作るものだそうですが、その習わしと関係があるのかもしれません。いずれにしても、かつて長崎の街では、「今年の甘酒はどがんやった?」「良かったばい」などと家族で、ご近所で会話が弾んでいたようです。そんな和やかな風景のある長崎は、ほんとに素敵だったことでしょう。



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