第267号【2006年の長崎くんち情報】
長崎の初秋の夜。耳を澄ませば、どこからともなくドラや太鼓、そして威勢のいい男たちのかけ声が聴こえてきます。これは今年の踊り町が「長崎くんち」の練習に励む音。10月7、8、9日の本番に向けていよいよ追い込みの段階です。
寛永11年(1634)にはじまった諏訪神社の秋の大祭・長崎くんちは、今年で372年目を迎えます。今年、奉納踊りを担当する「踊り町」は、桶屋町(おけやまち)、万屋町(よろずやまち)、栄町(さかえまち)、本石灰町(もとしっくいまち)、船大工町(ふなだいくまち)、丸山町(まるやままち)の全部で6ケ町。華麗かつ勇壮な出し物で、7年に1回めぐってきた大役を果たします。
長崎くんちは、知れば知るほど興味深く、見る側の楽しみも増すものです。そこで、ぜひ、訪れてほしいのが「シーボルト記念館」で開催する『シーボルトと長崎くんち展』(9/28~10/15迄)です。長崎くんちを神事として幕府が奨励した証の「御朱印状」や江戸時代にくんちの神事能で使用した能面など諏訪神社の貴重な収蔵品をはじめ、「鯨引き」、「コッコデショ」などシーボルトが描かせた江戸時代の出し物の絵、また、昭和11年や20年代の各踊り町の写真も展示されます。初めて公開される写真もあり、長崎くんちファンには本当に見逃せない内容になっています。
それでは、今年の踊り町の出し物をご紹介します。まず、桶屋町の「本踊り」。歌舞伎の創始者として知られる「出雲の阿国(いずものおくに)」をモチーフにした踊りが披露されます。町内の子供たちや藤間流の美しい踊子さんたちが、お祭りの喜びあふれる演技を見せてくれるそうです。
万屋町は「鯨の潮吹き」。大きな鯨を引き回す様子や鯨の背中から天高く潮が吹き出すさまが見ものです。また、踊り町のシンボルの傘鉾(かさぼこ)のたれは、180年前、伝統の長崎刺繍を施した「魚づくし」と呼ばれる貴重なもの(市有形文化財)。次回、7年後には新調されるそうなので今年が見納め。見逃せません。
栄町の「阿蘭陀万才(おらんだまんざい)」は、花柳流の方の指導によるもので、かわいい唐子に扮した子供たちや阿蘭陀万才を演じる二人のかけあいなどが見どころのようです。三味線など地方(じかた)の粋な演奏も楽しみです。
本石灰町は「御朱印船」。あざやかな朱色の船を、屈強な根曳衆(ねびきしゅう)が、豪快に船を引き回すさまは、まさに大海の荒波を行くようです。この出し物のストーリーは、安土桃山~江戸時代初期に実在した長崎の貿易商「荒木宗太郎」が安南(ベトナム)のお姫さま「アニオーさん」を花嫁として長崎港へ連れて帰ってきた様子を再現したもの。荒木宗太郎役とアニオー役を演じる子供の家では、本番の数カ月前に、ちゃんと結納をかわします。町の人々の思い入れが伝わる徹底ぶりです。
船大工町は「川船」。江戸時代に船大工が住む町として栄えたこの町の歴史にちなんだ出し物です。男の子が演じる船頭の「網打ち」シーンで魚を一網打尽にする姿が見どころのひとつ。波の紋様の衣装に身を包んだ根引き衆の姿も勇ましく、引き回しも見事です。
丸山町は「本踊り」を奉納。41年ぶりに長崎くんちに復活します。踊りは、長崎検番の芸子さんたち。花街の歴史を担って待望の登場です。そして、もちろん傘鉾も41年前と同じもの。当時を知る80代の男性の方は、「丸山の傘鉾のたれが、陽を浴びながら空気をはらんでパーッと広がるとき、何ともいえない美しさ、色っぽさがある」とおっしゃっていました。期待が高まります。
くんちを間近に控えた各踊り町の練習は、くんちを支える町の人々と共に、早くも熱気を帯びていました。練習を見守っていた本石灰町の60代の女性の話が印象に残りました。「とにかく子供たちが練習に行きたがるんです。兄弟が少ない時代にあって、ここに来れば兄ちゃんや姉ちゃんがいるし、根曳き衆の男たちもかわいがってくれるから、うれしいんでしょう。そこには町ぐるみの連帯感や絆があるんですね。これこそが長崎くんちの伝統なんですよ」。
◎取材協力/シーボルト記念館(長崎市鳴滝2―7―40)
TEL(095)823―0707