第250号【おいしいヒカドで、温まろう】

 今日は鏡開き。鏡もちをさげて、雑煮やぜんざいを作ったご家庭も多いことでしょう。お供物の鏡もちを食べることは、お正月の終わりを意味する大切な儀式といわれています。新しい年を佳い年にするためにも、鏡もちをいただいて力をつけたいものですね。


 お正月が過ぎると、冬の寒さはさらに厳しくなります。今回は、そんな季節にぴったりの長崎の郷土料理、「ヒカド」をご紹介します。「ヒカド」をご存知の方は、けっこうな長崎通かもしれません。地元でも知らない人が意外に多く、知っていても作ったことはないという方がほとんどのようなのです。


 「ヒカド」とは、ちょっと変わった名前です。それもそのはず、ポルトガル語の「picado」に由来する言葉で、その昔、南蛮人(ポルトガル人やスペイン人のこと)が長崎に伝えた料理の一つなのです。それでは一体どんな料理なのか。そのヒントもこの名前にありました。


 ポルトガル語の辞書を引くと「picado」には、肉や魚肉のこま切れ料理という意味があると書いています。その通り、「ヒカド」は、1、5cmほどのさいの目切りに揃えた肉や魚肉、冬野菜などを煮込んだものです。味付けはとてもシンプルで、材料を煮込んだ後、酒、薄口醤油、塩で整える程度。調理の最後にサツマイモをすってトロミとコクを出したその味わいは、心身ともに温かくしてくれる素朴なおいしさです。


 トロリとした味わいがシチューに似ているので、「長崎シチュー」とも呼びたくなる「ヒカド」。知人から聞いた材料(3~4人分)と作り方をご紹介します。




1、マグロまたはブリの切り身1~2枚(約100g)、鶏モモ肉(50g)、サツマイモ(中1個)、ダイコン(1/2本)、ニンジン(1本)を各1、5cmのさいの目切りにします。干ししいたけ(2~3枚)はもどして、4等分に切ります。さいの目に切った魚肉は湯どうししておきます。(※材料はこの他、サツマイモやゴボウ、キクラゲなどを入れてもいい)。




2、鍋に、だし汁800~1000cc(したけのもどし汁も加えて)と、サツマイモと魚肉以外の材料を入れて煮込みます。




3、材料に火が通ったら、サツマイモと魚肉を入れて煮込み、酒(大1~2)、薄口醤油(小1~2)、塩(小1)で味を整え、サツマイモ(中1/2個)をすりおろして入れトロリとさせて出来上がり。器に盛ったら小ネギを散らします。




 「ヒカド」は、けんちん汁や新潟の郷土料理として知られるのっぺい汁に、材料や調理法がよく似ています。大きな違いは、前者が材料をさいの目切りで揃えるのに対し、後者はいちょう切りや輪切りなど特に切り方を揃えていません。


 さいの目に揃えたのには、どんな理由があったのでしょう。見た目や食べやすさのため?本当に、伝わった当初からそうだったのかしらん?滋味溢れる「ヒカド」のスープを飲んでいると、いろいろと想像がふくらみ、先人が残してくれた郷土の味を大切にしたいなあと、あらためて思うのでした。




◎ 参考にした資料や本/長崎事典(長崎文献社)、ジャポニカ大日本百科事典4巻(小学館)、長崎卓袱料理(ナガサキインカラー)、長崎の郷土料理(長崎出版文化協会)

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