第244号【ミニチュアでつくる長崎、伊東山直美さん】

 キャラメルのおまけについていたミニチュアのおもちゃ。小さい頃、夢中になって集めた方も多いはず。男の子なら車や怪獣、ロボット、女の子ならキッチングッズやテーブル&チェアなど。子供の手のひらにすっぽりおさまる小さな世界は、見るだけで楽しい気分になります。


 ミニチュアといえば、生活空間のいろいろなものを縮小サイズで表現したヨーロッパのドールハウスが有名です。日本にも、職人の道具や暮らしの用具、家屋などをミニチュアで表現する工芸がありますが、身近なところでは、ミニカーや洋酒のミニボトル、映画やアニメの登場人物をリアルに表現したフィギュアなど。マニアでなくても、そのかわいさ、リアルさに心を動かされ、つい買ってしまったという方もいらっしゃることでしょう。


 「人は、小さくてかわいいものに無条件にひかれてしまうところがあると思うんです」と話すのは、長崎在住のミニチュア粘土作家、伊東山直美さん。卓袱料理、桃カステラ、皿うどんなどの食べものから、長崎くんちの庭見せ、コッコデショの山車など長崎独自の風土や風習にこだわった作品を制作し、長崎を愛する人々やミニチュアファンに注目されています。




 「本物の質感や、線の美しさにこだわります」という伊東山さん。その指先から生まれる「長崎もの」の世界は、女性ならではの繊細な表現が特長で、その色、形にはどこか郷愁を誘うものがあります。「子供の頃、遊びに行った父の故郷、伊王島(長崎港の沖合いに浮かぶ小さな島)の風景が今も忘れられません。街のようにゴチャゴチャとしていない素朴な風景。その島だけ、時計が止まっているようでした」。自然の美しさや古き良き日本の風景に強くひかれるという独自の感性が作品に反映されているようです。




 ミニチュアの制作に用いる樹脂粘土は、固め、薄くよく伸びる、過熱すると膨らむタイプなど、性質の違う種類がたくさんあります。伊東山さんはそれぞれの特徴を熟知して、適度な割合で組み合わせ、リアルな質感に近づけます。色づけのためのアクリル絵の具を練り込んだひとつまみほどの粘土を、手のひらで丸めたり、指先でかたどったりしながらパーツがつくられます。細部は、つまようじや綿棒、筆、糸などを用いたさまざまな技法で色や模様がつけられます。




 子供の頃から、何かを表現したいという思いがあったという伊東山さん。10代でデザインの基礎を学び、結婚後も墨画、油絵、パステル画、創作人形などさまざまなアートにチャレンジしました。そして8年前、有名なミニチュア粘土作家の作品に感銘を受けたのがきっかけでこの世界へ。「それまでに学んだいろいろな分野のさまざまな技法が、ミニチュアづくりにとても役立っています」。


 伊東山さんの作品には、地元の方々からさまざまな意見や感想が寄せられます。「とても勉強になります。もっといいものをつくって、みなさんの故郷への熱い思いにこたえたいですね」。感動する気持ちがものづくりの基本だという伊東山さん。今後もそのひとつひとつを形にしながらマイペースで制作を続けていくそうです。





◎ 伊東山直美さんの作品は、長崎新聞社から今年7月発行された「長崎料理~百花撩乱ふるさとの味」(脇山順子著)の挿し絵として掲載されています。また、〈伊東山家のホームページ http://www1.cncm.ne.jp/~itoyama/mama.html〉でもご覧いただけます。

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