第234号【月の美術館へ、ようこそ】
ゴールデンウィークの遊び疲れを癒せぬまま、いつもの忙しい日々にもどられたあなたへ。今宵、空を見上げてお月さまの神秘的な世界に思いを馳せてみませんか?「5月11日は4日月(よっかづき:新月から4日目の月)です。満月に向かってだんだんエネルギーが満ちていくこの時期は、何か新しいことをはじめるのにいいといわれるんですよ」と話すのはヤマサキユズルさん。月を描く画家として今、静かに注目を浴びている方です。
唐人屋敷で知られる長崎市館内町にご家族と暮らすヤマサキさん。一戸建ての住まいに、アトリエと《月の美術館》と名付けたスペースを設けて創作活動を続けています。「ごめんください」と訪ねた《月の美術館》は、二間続きの和室を解放した空間で、ヤマサキさんの心に浮かんだままに描いたというさまざまな「月」の絵が展示されています。まるで友人の家に遊びに来たかのような楽ちんな雰囲気が漂う室内には、ヤマサキさんお気に入りのジャズがいつも流れているのですが、思わずCDのタイトルを尋ねてしまうほど、いい感じの曲ばかり。聞けば、相当のジャズ好き。手に入れたCDも4千枚以上と半端ではありません。「音楽も僕にとってはとても大事なものなんです」。
ヤマサキさんの絵は不思議です。見ていると絵の中の月の光を浴びているような気分になります。月の光を意識的に浴びて、心身を癒したり、パワーをもらう「月光浴」というものがあるそうですが、描かれた月での月光浴もあるのかもしれません。来場された方々が口々に「何だか元気が出てきました」とおっしゃって帰って行かれるという話にもうなづけます。
ジャンルや好みを超えて、どこか普遍的な力が感じられるヤマサキさんの絵。「自分の意思で描いていますが、何かに描かされているような感じもします」。ヤマサキさんは、かつて中学の美術の教師でした。教育者として多忙な日々をおくる一方で、自分だけの絵を模索していたある日、脳腫瘍が見つかりました。「死」と隣り合わせの危険な状態を乗り越えて復職するも、またもや繰り返されたストレス漬けの日々と決別すべく退職、まもなくお父様が急死、そして、「月の詩」と題した絵を描いたのをきっかけに、「一年間で100枚、とりつかれたように月ばかり描き続けました」。
人生の大きな曲面を経て、「本音で生きる」ということを心に決めたヤマサキさん。現在、頼りがいのある奥さまと2歳になるやんちゃな息子さんと一緒に、毎日楽しく暮らしています。「経済的な贅沢はできませんが、気持ちはとてもラク。何ものにも変え難い自由な時間やいろいろな方との出会いがあります。本物の贅沢をしてると思います」。
「月を眺めていると、自然との共存を体感したり、本来の自分をとりもどすような感じがしませんか」とおっしゃるヤマサキさん。来場者は畳にあぐらを組んで絵を眺めたり、月について延々と語り合ったり、なぜか身の上話をはじめたりなど、ここで思い思いの時間を過ごしていかれるそうです。さて、あなたはどんなふうに「月の美術館」で過ごされるのでしょう。
◎ 取材協力/月の美術館
◎ ヤマサキユズルさんは、「月の美術館」館長をはじめ各分野のアーチィストと交流し活動を支援する「雑アート21」の主宰や「月の会・長崎」の世話人など多彩な活動をしています。