第229号【長崎ことはじめ:クレソン、ほうれん草】
桜の開花が待ち遠しい今日この頃。あと数日もしたら長崎は咲きそうです。あなたの町の桜開花予定日はいつ頃ですか?
さて、今回は野菜のお話です。長崎の地元新聞によると、長崎市では長崎由来の伝統野菜の復活をめざして、新年度から『ながさき原種野菜等育成、活用事業』の取り組みをはじめるとか。鎖国時代、長崎には外国の野菜がいろいろ伝来し、その後、全国各地に広がったものがたくさんあります。その中から赤カブ、赤ダイコン、長崎タカナ、唐人菜(長崎ハクサイ)、辻田ハクサイ、長ナス、大ショウガの8品目を伝統野菜に選定し、本格的な育成をはじめるようです。長崎の歴史もいっしょに味わえる野菜たちの今後の展開が楽しみですね。
この伝統野菜8品目にはありませんが、香味野菜のクレソンも長崎にゆかりがあります。ステーキなどのつけあわせやサラダなどに利用されるクレソンは、ピリッとした辛みとさわやかな芳香が特長で、別名「オランダからし」とも呼ばれています。
クレソンの原産地は中部ヨーロッパ。日本へは明治時代に入ってきたようです。その来歴は諸説あり定かではありませんが、一説には明治12年に長崎・外海町に主任司祭として赴任してきたフランス人宣教師のド・ロ神父が、 貧しく質素な生活を強いられていた外海の人々のために故国からクレソンの種子を取り寄せて育て、それが日本各地に広がったといわれています。
キリストを意味する耶蘇(ヤソ)にあやかってか、クレソンをヤソ芹という呼ぶ地域もあるらしいので、この説は有力かもしれません。クレソンはカルシウムや鉄分が含まれ栄養的に優れた野菜です。生のままのサラダもいいですが、ひと手間かけてポタージュにしていただくとまた格別ですよ。
ホウレンソウもまた長崎ゆかりの栄養豊富な野菜です。日本へは江戸時代の初め頃(それ以前という説もあり)、唐船によって長崎に運び込まれたのが最初といわれています。ホウレンソウの原産地はアフガニスタン附近で、冷涼な気候を好む野菜です。そういえば、日本でもかつては冬の野菜を代表していた時代がありました。今では栽培技術の向上で一年中手に入ります。
ホウレンソウには、アクが少なくおひたしに向いた東洋種(葉が薄く、刃先がとがって深い切れ込みがあるタイプ)と、バター炒めなどにするとおいしい西洋種(葉が肉厚で丸みを帯びたタイプ)があります。現在市場に多く出回っているのは、東洋種と西洋種を交配させた一代雑種だそうで、おひたしにもバター炒めにも適しているタイプです。
江戸時代、長崎に持ち込まれたホウレンソウは、アクの少ない東洋種だったようです。元禄時代の有名な浮世草子作者の井原西鶴の小説にもホウレンソウのおひたしが登場します。当時のお味は改良されていない分、野性味あふれる味だったのではないでしょうか。
◎参考にした資料や本/ながさきことはじめ(長崎文献社編)、グラフィック100万人の野菜図鑑(野菜供給安定基金)日本大歳時記~春~(講談社)