第228号【長崎市立博物館・桃の節句展へ】
陽暦の3月3日は、桃の花の季節にはまだ早く、地方によっては今も陰暦3月3日または陽暦の4月3日に桃の節句の行事を行っているところがあります。そこで今週も、ひなまつりの季節にちなんだ催しとして、長崎市立博物館(長崎市平野町)で開催中の「桃の節句展」をご紹介します。
桃の節句は、中国の古い風俗のひとつで、三月の上巳(じょうし:三月最初の巳の日)に水辺に出て災厄を払ったという行事がルーツだといわれています。この風習が780年代頃に日本へ伝わり、貴族たちが自分の厄を人形(ひとがた)にうつして川へ流すという「お祓い」の儀式を行うようになり、その人形がいつしか美しく着飾られて雛遊びをする風習へと変化。女児のための節句として盛大になっていったのだそうです。
ところで、桃は不老長寿の霊果として中国では古くから親しまれていますが、その由来は、「西王母(せいおうぼ)」、「東方朔(とうぼうさく)」の故事にあるそうです。「西王母」とは、崑崙(こんろん)山に住む女の仙人で、その庭には三千年に一度しか実らないという「蟠桃(ばんとう)」の樹がありました。三千年分のパワーがつまったその蟠桃の実を食べると不老長寿になるとして、中国の人々の信仰を集めたそうです。
「東方朔」は実在の人物で、武帝(前141~前87)に仕えた役人で学者でもありました。伝説では、仙人となり西王母の蟠桃を盗んで食べ長寿をほしいままにしたのだそうです。展示室では、江戸時代の長崎派の画人が描いた蟠桃の絵、「三千歳図」をはじめ、「西王母」「東方朔」の絵などを見ることができます。
長崎と中国とのゆかりの深さが感じられる展示物として、「蟠桃」をデザインした木製の古い扉がありました。その扉は長崎の大音寺という浄土宗のお寺にあったもの。唐寺でもないのに桃のデザインが使われるのはとても珍しいそうです。
このほか、長崎の画壇の大御所として活躍した石崎融思の「桃図」や川原慶賀による「雛人形図」、古賀人形のおひなさま、三河内焼の桃型の器など、長崎のこの季節にぜひ見ておきたい絵画や工芸品が展示されています。
また、市民から寄贈された由緒あるひな飾りもあります。大正時代に婚礼の調度品として京都で製作された「有職雛(ゆうそくびな)」や、京都御所を忠実に再現したといわれる「御殿造雛飾」など、いずれも見応えのあるものばかりです。さらに、同博物館の長崎県所蔵品展示コーナーでは、「来舶清人展」を同時開催中です。江戸時代の中・後期に貿易のために長崎にやってきた中国・清朝期の人々による書や絵画を展示。彼らの高い教養と芸術的センスは、当時の日本に新たな影響を与えたといわれています。
長崎市立博物館は、今秋に開館予定の「長崎歴史文化博物館」(立山1丁目)へ移転するため4月1日から休館します(「長崎歴史文化博物館」の開館に合わせて閉館予定)。この「桃の節句展」は3月27日まで行われ、最後の3日間は、一階の常設展示室(1階)のみご覧いただけます。入館料は大人100円、小中学生50円です。(なお、長崎市民は無料。入館の際は、公的な身分証明書を呈示してください)。ぜ
ひ足を運んでください。
◎参考にした資料や本/長崎市立博物館だより(平成17年3月号)、日本大歳時記~春~(講談社)