第188号【事始め~落花生とビール~】
だんだんと夏に向かうこの季節、仕事が終わってからのビールがますますおいしくなりますね。ビールは冷蔵庫に必ず入っているというご家庭も多く、季節を問わず毎晩欠かさないという方もいらっしゃるように、私たちにとってたいへん身近なアルコール飲料です。そういえば、ひと頃は地ビールブームで、全国各地でオリジナルビールが作られていましたが、日本人がビール好きであることをあらためて思い知らされました。
そんなビールの日本でのルーツを探ってみると、鎖国時代の長崎にさかのぼることがわかりました。オランダ船が出島に運んできたのがはじまりだそうです。「ビール」という言葉もオランダからの外来語で、当時は「ビイル」と呼ばれたり、また、その原料から「麦酒」と訳されて「むぎざけ」とも呼ばれていたとか。現在でも、ビールは漢字でこう書きますよね。
江戸中期の蘭医で、「解体新書」を翻訳したことで知られる杉田玄白は、長崎でビールを飲んだ時の感想を、「にがくて味わうに耐えない」と書き記しているそうです。
そういえば、長崎奉行所の役人が、出島でオランダ船が運んできたコーヒーをはじめて飲んだときもに、「にがくて味わうに耐えない」と同じようなことを言ったと伝えられています。ビールにしてもコーヒーにしても現代の日本人にとっては欠かせない飲み物ですが、当時の日本人の口に合うものではなかったようです。
さて、キンキンに冷えたビールに欠かせないのがおつまみです。これまた、長崎ゆかりということで、落花生などはいかがでしょう。落花生の原産は南米ですが、江戸時代に中国経由で唐船が日本に伝えたという説と、ヨーロッパルートでオランダ船が運んだのではないかという2つの説があるそうです。いずれにしても最初は長崎に渡り、各地に広がっていったと推測されています。
ところで、落花生ゆかりの地である長崎県にふさわしいものが、長崎県大村市にありました。「塩ゆで落花生」という特産品です。地元で栽培された落花生を、殻付きのまま大釜で塩茹でしたもので、殻の中にはほどよい塩加減に茹で上がった柔らかい実が並んでいます。とにかくビールによく合うおすすめのおつまみです。
この夏、ビール&落花生でリラックスタイムを過ごす時、このおいしさが遥か昔に海を渡ってきたことや、日本でのルーツが長崎にあることを思い出してみませんか。いつもの味が、ロマンの味に変わるかもしれません。
◎参考にした本:ながさきことはじめ(長崎文献社)、長崎事典~風俗文化編~(長崎文献社)