第186号【長崎の端午の節句~唐あくちまき~】

 きょうは端午の節句。かしわ餅やちまきを召し上がった方も多いことでしょう。この節句の由来となる中国では古来、この時季、虫が出てきたり悪疫が流行りやすかったため、その厄除けのために門に薬草のショウブをさしたり、薬用酒やちまきを食べて健康を祈ったのだそうです。


 長崎では端午の節句が近づくとちょっと変わった形のちまきが、和菓子屋さんや饅頭屋さんの店頭に並びます。普通、ちまきといえばもち米や団子を竹の子の皮で三角形に包んだものを想像しますが、このちまきは、もち米がサラシでくるまれ棒状をしています。「唐あくちまき」とか「長崎ちまき」と呼ばれるものです。




 中国と古くから縁の深い長崎は戦国時代末期から、江戸前期に入り唐人屋敷ができるまでの約100年間、唐船の来航がたいへん盛んで、唐人たちが長崎市中に自由に居住していました。そんな中で長崎の人々の暮しは中国の風俗や習慣にいろいろと影響を受けます。さらに唐人屋敷が完成して、唐人たちが皆そこに居住するようになってからも、食、祭、生活習慣など彼らの影響を受け続け、現在の異国情緒豊かな長崎の町の雰囲気が紡がれていったのです。


 そんな歴史的つながりを背景に、いつしか長崎で作られ食べ継がれてきたのが、この「唐あくちまき」です。作り方は、「唐あく」を溶かした汁に一晩つけ込んだもち米を、細長いサラシの袋につめて長時間煮ます。煮上がったサラシ袋を切り開くと、ツヤツヤとアメ色に輝くちまきが顔を出します。切るときは、包丁でなく糸を巻くようにして切ると簡単です。もっちりとした食感と、唐あく独特の風味が特徴で、砂糖やきなこ、黒みつなどをつけていただきます。






 もち米を柔らかくアメ色にする「唐あく」は、もともと中国で産出する天然のアルカリ性の湖水のことです。現在、長崎では炭酸ソーダをもとにしてつくった固まりが輸入されていて、新地中華街などへ行くと、ちまき用の「唐あく」として売られています。「唐あく」は、ちゃんぽん麺の製造にも用いられていて、特有の匂いとねばりを出す役割を果たしています。でも、ちまき用の唐あくとは、ちょっと違うらしく、ちゃんぽん麺には使用できないそうです。




 長崎人に食べ継がれている「唐あくちまき」は、子供の頃はあまり好まなかったのに、大人になって好きになったという人が多いようです。また、「ウイロウみたい」という人もいます。はてさて、どんなお味なのか。ぜひ、長崎で食べてみて下さい。




◎参考にした本

大日本百科事典(小学館)、中国文化と長崎県(長崎県教育委員会)、長崎県大百科事典(長崎新聞社)、長崎料理歳時記(長崎新聞)


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