第182号【春の風物詩 長崎のハタ揚げ】

 北へ北へとバトンタッチされる桜前線も東北あたり。長崎では今、満開のピークが過ぎたところ。葉が出て花びらが舞い散りはじめています。さて長崎の春といえば、花見と重なるこの頃から5月にかけて「ハタ揚げ」(=凧揚げ)シーズンでもあります。




 なぜ、長崎では「凧」が「ハタ」と呼ばれるのか、その由来ははっきりしていません。


 各地の呼称をみても、関東では主に「タコ」ですが、東北では「テンバタ」、京阪では「イカノボリ」などさまざまです。ちなみに日本の「凧」は、もともと平安時代以前に中国から伝わったもので、それが津軽凧(青森県弘前)、奴凧(東京周辺)、百足凧(香川県高松)など全国各地で見られる地域性あふれる凧へと発達したのだそうです。


 各地に個性的な凧があるとはいえ、かつて子供たちの遊びのひとつとしてごく普通に見られた凧揚げの風景も、今ではめったにお目にかかれなくなりました。そんな中、長崎では伝統行事のひとつとして大切に伝えられ、春の休日ともなると、稲佐山、唐八景、金比羅山といった長崎の山々で市民参加のハタ揚げ大会が賑やかに行われています。




 長崎のハタは一説には16世紀の半ば頃、出島にオランダ人の従者としてしてきていたインドネシア人から伝えられといわれています。「ビードロよま」と呼ばれるガラスの粉を塗り付けた糸を使い、空高く揚がったハタ同士が、お互いのヨマとヨマを絡ませて切り合いますこのようなハタ合戦をすることから「けんか凧」とも呼ばれています。




 竹と和紙で手作りされる長崎のハタは、「あごばた」と呼ばれる種類のものだそうです。ハタの模様は描き入れるのではなく、その形に切り取った紙を貼ります。図柄はいずれもシンプルで、万国旗をもとにしたもの、外国から輸入された織物や縞の模様をデザインしたもの、また天体や鳥獣、植物、文字などが簡潔な図柄にデザイン化されています。たとえば、日本国旗、旧ロシアの国旗をモチーフにした「日の丸」や「十文字」の図柄。他には「月」、「石畳」、「かりがね」、「桝」などその図柄は全部で200~300種はあるといわれています。




 地元のハタ揚げ大会は、毎回大人たち(主におじいちゃん世代)の活躍が目立ちます。


 上空でハタを右や左、上や下へと移動させ旋回させるといった技は、確かに熟練が必要。長崎では昔から子供というより大人の遊びだったというのもうなづけます。あなたも。この春、長崎のハタ揚げ大会へ出かけてみませんか?大空に舞い上がる様子を見るだけでも気持ちがいいですよ。




◎参考にした本:大日本百科事典~ジャポニカ11巻~、長崎事典~風俗文化編~

検索