第176号【ユニークな伝統菓子、茂木の一○香】
陽射しや風にかすかな春の気配が感じられます。でも天候不順が続きやすいこの時期、風邪ひきさんが急増中です!山の幸、海の幸満載のちゃんぽんで栄養をとって、元気に乗りきりましょう!
今回、ご紹介するのは長崎の伝統菓子のひとつ「一口香(いっこっこう)」です。
江戸時代中期に中国より伝えられた干し菓子で、もとは唐の禅僧や唐船の乗組員たちの保存食だったものです。上下にこんがりと焼き色の付いた丸い形が素朴でいい感じ。手に取って、そっと二つに割ると、あら、驚き!中身がからっぽなのです!そうとは知らず、一口香を初めて口にする人は、「あれっ?あんこを入れ忘れてるわ」と思うようなのです。
中が空洞のユニークなお菓子、一口香の発祥の地、茂木へ行って来ました。長崎駅から車で約20分。
美しい橘湾に面した茂木の港は、江戸時代には肥後や薩摩の港から長崎へ通じる要港として繁栄したところです。その茂木港へ、ある日、初代市衛門が雑貨商を営んでいた頃、唐船の乗組員達によって彼らの保存食が伝えられたといわれています。それをさらにおいしく香ばしく仕上げたのが1844年創業の老舗、「茂木一まる香本家(もぎいちまるこうほんけ)」のご先祖様だったのです。
ひとつひとつが手作りの「茂木一まる香本家」の一〇香(いっこっこう)。その作業を見学させていただきました。厳選の小麦粉で生地をこね、次に中に入れるあんを水飴、黒砂糖、はちみつなどの材料を混ぜてこねます。こね具合はその日の天気に左右されるので、長年の経験で培ったあんばいで水加減を微調整。職人さんが、小さく丸めた生地を軽く平たくして、すばやくあんを入れて丸め、白胡麻の敷かれた木の箱に次々に並べていきます。この時、まだ空洞はありません。
銅板にのせられ200度以上のオーブンで、15分ほど焼きます。一〇香の空洞がつくられるのは実はこの時です。焼いて膨れ上がった皮に、中のあんが溶けて内側にくっついてしまうため中が空いてしまうのです。オーブンから出された後冷まし、さらに焼き目を入れ、香ばしく仕上げられます。
江戸時代には、長崎の花街・丸山から茂木に通じる「茂木街道」がありました。
この街道は文人墨客の往来が多く、茂木の名物となったこのお菓子はお客様に茶菓子として好まれたそうです。その時、一口ほお張ると香ばしいというので、「一〇香」と名付けられたとか。
以来、手作りの味を守り続けている「茂木一まる香本家」。人々に長く愛され親しまれ続けている秘けつは「作る人の魂」にあるようです。