第169号【長崎の正月惣菜~紅さしの南蛮漬~】
今日、明日とクリスマスを思う存分楽しんだ後は、大晦日、そしてお正月と大切な歳事が待ち構えています。これからおせち作りをはじめ、やり残した掃除や用事を済ませるなど、新年を迎える準備も大詰めですね。最近ではデパートや料亭などにおせち料理を注文するのが当たり前となったご家庭がずいぶん増えたそうですが、やはりどんなに忙しくても、初春の膳は晴れ晴れとした気分でおせちを囲みたいという思いはみな同じです。
そのおせち料理には、子孫繁栄を願う数の子、豊作祈願の田作り、まめに働くようにを意味する黒豆の他、昆布巻き、栗きんとんなどの定番料理に、各地の伝統料理がいくつか加わって、その地方独特の寿ぎの膳が作られているようです。長崎の場合、その一品といえば、「紅さしの南蛮漬け」です。
紅さし(ベンサシ)とは長崎の方言で、一般に「ヒメジ」と呼ばれる魚のこと。体調15センチ前後の小ぶりな身体で、その名の通りおめでたい紅色をしています。日本各地で捕れ、干物や天ぷらなどでもいただきますが、長崎ではやはり南蛮漬でいただくことが多いようです。
新鮮な魚が毎朝水揚げされる茂木漁港から、紅さしを仕入れている長崎市築町市場の「貝賀てんぷら」の女将さんによると、紅さしは年中あるけれど、長崎では正月用の南蛮漬を作るため、師走の時期がもっとも出回るとか。12月上旬過ぎから大晦日にかけてどんどん値が上がるため、ちょっと早めにまとめ買いをするといいそうで、「南蛮漬は冷凍しておいて、お正月には必要な分だけを解凍しながら食べたらいいよ」とアドバイスしてくれました。
作り方は、まず紅さしを一日ほど干して適度に水分を抜き、油で素揚げします。漬け汁は、酢、醤油、砂糖、だし汁、唐辛子などを合わせ、いったん煮立てて冷やしてから漬け込みます。半日以上経ったらいただきます。
南蛮漬は、現在ではポピュラーな料理法ですが、もとをたどれば南蛮貿易時代にポルトガル人が長崎に伝えたといわれ(また、中国料理のひとつという説もある)、長崎から全国に広まったものです。ちなみにその当時の日本人は、油で揚げた魚は好まず、酢や香料の入ったものも食べなかったとか。南蛮漬はまさに、おっかなびっくりの異国の味だったようです。
冬の卓袱料理でも出される「紅さしの南蛮漬」。長崎の歴史をひもとくこの一品には、ふるさとを大切に思う心を育てるおいしいきっかけがあるようです。
撮影&取材にご協力してくださった、「貝賀てんぷら(長崎市築町)」のみなさん、ありがとうございました。