第160号【上五島の教会その1・石造りの頭ケ島教会】

 日本の最北西端にある五島列島を訪れたことはありますか?長崎港から五島灘を往来する定期高速船で約80分。南北に連なるこの列島は、南から福江島(ふくえじま)、 久賀島(ひさかじま)、奈留島(なるしま)、若松島(わかまつじま)、中通島(なかどおりじま)の5つの主な島があり、美しい波間に浮かぶ周辺の小さな島々も含めると、島数は130を超えるそうです。




 五島列島には、禁教の時代(戦国時代~江戸時代)に、迫害を逃れた長崎のキリシタンたちが渡りました。島内には長い潜伏期間を経て、晴れて信仰の自由が許された明治以降、熱心なカトリックの信徒の方々によって建てられた教会が数多く点在しています。キリシタンの歴史はもちろん、過去の建造物や洋館に感心のある方にとっても必見の教会ばかりです。


今回、ご紹介する頭ケ島(南松浦郡有川町)は、中通島の東北部に位置する周囲わずか4km足らずの小さな島です。ここには上五島(五島列島北部地域)で唯一の空の玄関・上五島空港があり、また周囲は絶好の釣り場としても知られています。


 有川町の中心部から車で約30分ほどの頭ケ島へは、町内屈指のビュースポット、中通島と頭ケ島を結ぶ全長300メートルの「頭ケ島大橋」を渡って行きます。頭ケ島の山合いの道路を下ると、突然、目の前にエメラルドグリーンの海が広がりました。その海辺には数軒の民家。波音と、風に揺れる樹木のざわめきしか聞こえない静かな集落です。




 頭ケ島教会は、この小さな集落の風景に溶け込むように建っていました。石を積み上げたその姿はいかにも堅牢そう。素朴で、しかし洗練されており、不思議な存在感があります。この頭ケ島教会は、大正6年(1917)に建立。日本の教会建築に大きな功績を残した鉄川与助(てつかわ よすけ)の設計・施工によるもので、西日本で唯一の石造り教会です。石はこの島に産出する砂岩で、信徒の方々が労力と全財産を捧げて築いたそうです。






 10~12世紀にかけてヨーロッパで発達したロマネスク建築を意識した教会の内装は、珍しい折り上げ天井で、白い花や薄いピンクの文様など華やかな装飾が印象的です。




そこには信仰の自由を得た人々の喜びが込められているのかもしれません。人口が少ないため日曜日の御ミサに集まる信徒数は20名に満たないそうですが、教会も、熱心な祈りも当時のまま受け継がれています。

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