第100号【ちゃんぽん文化が育んだ家庭料理「ハトシ」】
皆さんは「ハトシ」をご存じですか?それは長崎の家庭料理が発祥だといわれている料理です。 今回は長崎でも知る人ぞ知る「ハトシ」の謎に迫ります。 α~ (ー.ー") ハテ?サテ?ハトシ?
▲おいしく出来上がったハトシ
手作り(自作)です(^-^)
「ハトシ」は、エビのすり身を食パンにはさみ油で揚げたもので、おかずというよりおやつ風な料理です。 名前がとてもユニークですが、実は「ハトシ」は広東語で、 中華レストランでは「蝦吐司」「蝦仁吐司」「蝦多絲」「炸吐司」などと書き表されています。 (□□)ノ旦~~「飲茶」系ノ料理ミタイデス
中国料理の名前の付けられ方には、 料理を作った人の名・地名・縁起のいい言葉などと材料・調理法などを組み合わせることが多いそうですが、 「蝦吐司」の場合は「蝦」はエビ、「吐司」はトーストを意味し、材料名をそのまま使っています。
さて、その「ハトシ」が長崎へ伝わったのはいつ頃でだったのでしょう。
長崎の著名な郷土史家である越中哲也先生によると「ハトシが伝わったのは明治以降で中国から来たらしい。 もともとは、料亭から始まり家庭料理になったようだ」ということでした。 中国と長崎は古くから交流の歴史があり、その中で卓袱料理やちゃんぽんが生まれています。 その土地柄を思えば「ハトシ」もまた然りと考えていいのかもしれません。
「ハトシ」は主に中華レストランや卓袱料理を出す料亭や小料理屋などで味わうことができますが(五百~千円位)、 実はこうしたお店で出される「ハトシ=蝦吐司」(エビのすり身を使ったもの)と、 ジゲモン(長崎人)たちが家庭で作る「ハトシ」は、ちょっとした違いがあります。
▲中華街で見かけたハトシの
メニューサンプル
たとえば戦後昭和20年代後半に、子供達によく作ってあげていたという70代の老夫婦は『魚や豚のミンチとか、その日、手に入ったものに野菜やあり合わせのものを混ぜて作りよった。 それこそ材料はちゃんぽんで、いろいろ工夫してね。子供がそりゃあ喜んだとよ』 (⌒ー、⌒〃)母チャン、ンマカー
また、鶏のすり身で作ったハトシが正月の定番料理だという人もいるなど、 パンにはさむすり身がエビに限らず家庭ごとの個性があるです。 その多様さ、懐の深さが、長崎の家庭料理が発祥だといわれる由縁かもしれません。
いろんなものを大らかに受け入れ、そこから新しいものを作っていく長崎独自のちゃんぽんな風土。 家庭料理「ハトシ」にはそんな長崎の地域性が秘められていました。
▲三角タイプのハトシ
※参考にした本/中国料理用語辞典(井上敬勝 編・日本経済新聞社 発行)