第85号【初夏の果実・茂木(もぎ)ビワ】
小さな電球を思わせるやさしいフォルムと、太陽のような色、そしてなによりジューシーなおいしさがたまらない「ビワ」。初夏の味覚として知られるこの果物が長崎で出回るのは、5月中旬から梅雨入り前のわずか3週間ほど。もっともこれは路地ものの場合で、ハウス栽培の早いものでは2月頃から出回っています。
▲出荷を待つばかりのビワ
ビワといえば子供の頃、近所の庭先に実ったのをこっそり食べ、叱られた事があります。温暖な気候を好むビワを長崎では庭木として育てている家も少なくありません。毎日の食生活にまだ「旬」を楽しむ雰囲気が残っていたその頃、我が家にはビワの木がなかったので、毎年のようにご近所からいただき、「今年もうまかね~」なんて言いながら食したものでした。(^〇^)ビワ、ダイスキ!
じつは長崎県はビワの生産量日本一で、とくに「茂木ビワ」は全国的にも有名です。この「茂木ビワ」は江戸時代末期、唐船が長崎にもたらしたといわれています。
▲橘湾を臨む茂木の山々
当時、長崎の代官の家に奉公していた茂木村の三浦シオという女性が、唐通詞からその種をもらいうけ、自宅の庭に蒔き、成長したものが現在の「茂木ビワ」の原木なのだそうです。このビワは現在「茂木」という品種名がつけられ、全国各地で栽培されています。
その茂木ビワ発祥の地は、長崎駅から車で30分ほどのところにあります。美しい橘湾を見おろす海沿いにあるこの地域は、陽光がまんべんなく当たる山の斜面のほとんどがビワ畑になっています。ビワの木は、実を雨風から守るために袋がけが施され、ちょっと遠めだとそれは白いモクレンの花にも見えます。(“)キレイデス
▲袋がけが施されたビワの木々
ビワ畑の続くせまい道路で小さなトラックに出会いました。ハウス栽培で収穫したビワを積んでいたのですが、歩いた方が速いくらいノロノロ運転。聞けば、ビワはとてもデリケートなので、輸送の振動で痛めないためにそうしていたのでした。
美しい自然の中、減農薬で手間ひまかけて栽培されているビワ。収穫・出荷も大切に扱われて店頭へ並びます。他の果物に比べて値段がちょっと高い理由はその辺にあるのかもしれません。
価格のこともあってか一般的にビワは、ちょっと高級な果物というイメージがあります。実際、お客様用とか、贈答品、お見舞品などとして購入する人が多いそうです。長崎もそういう傾向は確かにありますが、旬ともなれば外観はちょっとぶこつでも安くておいしいものがけっこう出回ります。ご近所からいただいたり、差し上げたりすることが少なくなったこの頃では、もっぱら“ふぞろいのビワたち“を求めて近所の果物屋さんをこまめにのぞくことになります。これはこれでけっこう楽しいものです。(^^)ゞハイ