第82号【長崎の伝統工芸・べっ甲細工の行方】

 おばあちゃんのかんざし、母のブローチやネックレス、居間に飾られた置き物。これが我が家にあるべっ甲細工です。べっ甲はちょっと高価な印象がありますが、長崎に生まれ育った私にとっては、普段の暮しの中にあるとても身近な存在です。江戸時代に唐より伝わり、以来長崎の伝統工芸品として現代に受け継がれているべっ甲細工。三百年もの伝統を誇る長崎のこの業界に、今から約10年ほど前、たいへんなことが起こりました。(・・



▲美しいべっ甲細工の髪飾り

(長崎市立博物館蔵)


 ご存じの方も多いと思いますが、べっ甲細工の原料となるタイマイの輸入が野生生物の保護と資源確保の問題からワシントン条約によって1993年以降全面的に禁止になってしまったのです。


 タイマイは小型のウミガメで、主に熱帯・亜熱帯に生息しています。このタイマイの甲羅が、べっ甲細工の原料となるのですが、今、タイマイを含むウミガメの仲間は海の汚染や産卵場所となる海岸の開発による破壊、さらに甲羅や卵を目的とする捕獲などで、その数が激減。中でもタイマイは絶滅のおそれが高いといわれているそうです。( ̄□ ̄;)ナント!


 べっ甲細工の産地・長崎では原料は輸入でまかなっていたため非常に困った状況に追い込まれました。輸入が絶えた後は、在庫のタイマイを原料に何とか伝統工芸の灯を絶やさないよう努力が続けられています。また卵や子ガメの保護で増殖を図ろうという声もあるなど、存続のためにいろいろと試行錯誤しているようです。



▲創業290年、べっ甲の老舗

江崎べっ甲店さん


 さてここでべっ甲細工の歴史を見てみると、長崎でそれがはじまったのは元禄年間(17世紀後半)と伝えられています。唐船が運んで来た原料と細工の技術を、長崎人が習得。そして工芸品として売られるようになりました。当時、作られていたクシ、カンザシなどの髪飾りはべっ甲独特の美しいあめ色と華麗なデザインが女性の心をとらえ、高価だったにも関わらずちょっとしたブームになったといわれています。また遊廓のあった丸山あたりには、きれいどころたちが買ってくれるからでしょうか、べっ甲職人が多く住んでいたという話です。(∩_∩;)昔モ今モ女性ハアクセサリニ弱イ!?


 ところで私は以前、老舗のべっ甲店で作業場を見学したことがあります。職人さんが昔ながらの素朴な道具で、べっ甲を削ったりしている様子はとても新鮮でした。べっ甲細工は接着剤を使わず熱と圧力を加えて加工。そこに伝統の技能が活かされているのだそうです。



▲作業場での真剣な眼差しが

印象的でした。(江崎べっ甲店)


 もともと美しいタイマイの甲羅。それに惹かれた人間はもっと美しく魅力的なものにしようと、工夫をし、技を磨いて、甲羅に新たな生命を吹き込みました。自然の美しさと人の技の素晴らしさを伝えるべっ甲細工。今後、タイマイの保護とべっ甲細工の伝統の継続という相反する両者が、それぞれ上手くいくことを願ってやみません。(-_-)難シイ問題ダ……

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