第60号【奇習、嫁盗み】
深まる秋、長崎では街路樹の葉っぱが乾燥してカサカサと音をたてはじまめした。もうしばらくすると紅葉や落葉が始まります。北の方に住んでいる人などはずいぶん遅いなあと思われるでしょうね。(^ー^;南国・九州ダモンネ
さて今回は江戸時代の長崎にあった風習「嫁盗み(よめごぬすみ)」についてご紹介します。これは読んで字のごとく、息子の嫁にしたい、もしくは自分の嫁さんにしたいという娘さんがいた時、男性側の親族友人などが相談しあって、お目当ての娘を盗み連れて結婚の盃をさせるという庶民の風習です。何だか野蛮な感じですが、奉行所に訴えられたり、喧嘩になったりということはなかったというから驚きです。(・。・;)無茶苦茶ナ風習ダ
▲嫁盗みの図(長崎古今集覧名勝図絵)
「嫁盗み」が庶民の風習として根付いたのにはそれなりの訳があったようです。例えば、貧しくて嫁入りの準備ができない場合、双方の親たちが内々に申し合わせて「嫁盗み」をさせ、盗まれたので嫁入りの準備が何ひとつ出来なかったということで、世間への面目を保ったといいます。また娘さん本人やその両親が結婚を承諾しなかった時にも「嫁盗み」が行われたのですが、この場合は後で仲人をたてて相手の家へ相談に行き、話をまとめたそうです。けして盗みっぱなしということではなく、暗黙のルールがあってそれなりに筋は通したのです。それは盗む時の様子でもわかります。(^^;略奪結婚トハチョト違ウ?
「嫁盗み」を行うのは元気の良い町の若いもん数人。お目当ての娘さんが外出したのを見つけると、用意したカゴにむりやり乗せます。そこで若い衆らは大声で、「○○町の△△という娘を盗んだぞ~」と叫びながら、カゴを担いで男性の家へと逃げるのです。
何とも大胆不敵な盗みですが、街角で突然沸き起こったこの騒ぎに周りの人の反応はというと、面白がって見る人はいるものの、驚くようなことは無かったといいます。「嫁盗み」は男性側の意志を表現した一種のデモンストレーション。良くあることで別に珍しくもない光景だったのです。(’_ ’)強引なプロポーズってとこ?
さて盗んだほうの男性の家では親類知人の女性陣らが嫁さんになるかもしれない娘を大事にもてなしました。それでも娘の気が進まない場合は、夜の闇にまぎれて逃げ出します。残された男性とその親族友人らは逃げた娘を追うようなことはしませんでした。しかし世間にそのことがばれては面目が立たないと、また別の家の娘さんを盗みに行くはめになったようです。(;´д`)トホホ
ところで娘を盗まれたと知った家はどうしたのかというと、「取り戻し」といって、町内の古老人ら数人の男たちが口利きとして、すぐに盗んだ方へ押しかけました。しかし取り戻しに行った男たちもそこでお酒を出され、いろいろサービスを受け、買収されるというのがほとんどだったそうです。┐(´ー`)┌ アラアラ
「嫁盗み」に似た風習は、昔は全国の各地にあったそうです。ままならぬことを実現させるために「盗む」という形をとりながらも、世間体や周囲の人々との関係を良好に保とうする姿が垣間見られる、実にユニークな風習ですね。
▲長崎の風俗・景勝を記す貴重な
史料「長崎古今集覧名勝図絵」