第637号【尾曲がりねこと家康公】

 今年はどんなお正月を過ごされましたか。九州の三が日は穏やかな天候に恵まれました。その後も、ほぼ冬晴れの日が続き、日中外出すると汗ばむことも。温かいと動物たちも活動的で、中島川ではアオサギ、シラサギ、マガモ、カワウ、カワセミ、イソシギ、ハクセキレイ、キセキレイといった野鳥たちを一度の散歩で見かけることもありました。真冬は、あまり表通りに出て来ない町ねこたちも、道端で日向ぼっこをしたり、じゃれあう姿を見かけます。






 町ねこといえば、長崎は、「尾曲がりねこ」が多いことで知られています。通常、ねこのしっぽといえば、しなやかに伸びた長いしっぽをイメージする人が多いと思いますが、「尾曲がりねこ」は、短いしっぽがクルっと丸まり、ボンボンのような形をしていたり、しっぽの先が曲がっていたり、通常のしっぽより短かったりします。その個性的なしっぽを長崎で初めて見た人は、「え?!」「かわいいー!」など、驚きを隠せません。






 長崎に、「尾曲がりねこ」が多い理由について。江戸時代、唐船やオランダ船が長崎に荷物を運んで来るとき、積荷をネズミから守るためにねこを乗せていました。その中に、東南アジアや中国南部原産の尾曲がりの遺伝子を持つねこがいて、寄港先の長崎に住み着いたその子孫たちが、いまも町ねことして生息していると考えられているそうです。

 尾曲がりは、「錠前」に似たその形から、「かぎしっぽ」とも呼ばれ、〝財産を守ってくれる〟、〝幸運をひっかけてくれる〟として、昔から縁起がいいとされているとか。新年早々、見かけた白ねこは、しっぽが見事にくるりと丸まっていました。ちなみに、ねこにはいろいろな毛色や模様がありますが、全身真っ白のねこは、幸運にちなんだエピソードが多く、こちらも縁起がいいそうです。






 道端で居眠りする「尾曲がりねこ」を見ていて、ふと思い浮かべたのが、日光東照宮の「眠り猫」(国宝)です。徳川初代将軍家康公を御祭神とする日光東照宮。その東回廊に施された木彫像の「眠り猫」は、家康公をお守りしていると伝えられています。実は長崎にも家康公を祀る「東照宮神社」があります。

 長崎市上西山町にある諏訪神社。その敷地に隣接する長崎公園の一角に、「東照宮神社」はあります。江戸時代、この場所には徳川歴代将軍を祀る「安禅寺」がありました。その本堂や庫裡(くり)は、現在の長崎公園の丸馬場一帯にあったそう。当時は、将軍を祀っていたことから崇敬を集めていましたが、明治維新とともに廃寺となり、御宮は「東照宮神社」として諏訪神社の末社になり現在に至っています。




 市民が憩う丸馬場から「東照宮神社」に向かう道すがら、かつての参道跡と思われる石段が見られました。また、丸馬場の入り口には、徳川葵紋を刻んだ石門も残されています。この石門は、文政2年(1819)に乙名(町年寄の下で、実際に各町を支配した地役人)らの寄進によって建立されたもの。徳川家と長崎のつながりを現代に残す大切な遺構のひとつです。




◎今年もみろくやの「ちゃんぽんコラム」をよろしくお願い申し上げます。

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